関西大学2年生
神丸奈々
志戸平温泉株式会社
久保田 剛平
学生と経営者がお互いに意見交換しながら、相互理解を深めるHR sessionの対談コンテンツ。
今回は、志戸平温泉株式会社 代表取締役社長 久保田 剛平様に、お話を伺いました。
関西大学経済学部。2026年卒業見込み。大学では、学園祭実行委員会に所属。実践的な業務を経験できること、社会人の方とコミュニケーションを取る機会を得られることに魅力を感じインターンシップに参加。趣味は音楽を聴くことや、カラオケ、温泉やサウナ、旅行など。
1982年岩手県生まれ。法政大学経営学部卒、グロービス経営大学院卒(MBA)。大学卒業後Uターンし、リゾート運営会社、岩手ホテル&リゾートに入社。6年間の社会人経験を積み、2010年に志戸平温泉株式会社入社。2022年11月、代表取締役社長に就任。旅行、サウナ、ランニングが趣味で、フルマラソンには毎年チャレンジ!
目次
が
地元を知り、地元を知ってもらうために
神丸
はじめに2022年に社長に就任された経緯を伺ってもよろしいですか。
久保田
2022年の11月に社長に就任しました。弊社は創業が1830年で、私自身、創業家の人間なんです。将来的に事業継承するうちの一人でしたが、色々な方々の支援もあり、一昨年就任させていただきました。
神丸
もともと社長になりたいという思いをおもちだったのでしょうか。
久保田
社長になるつもりで入社したわけでなかったですし、なりたいという気持ちを持っていたわけでもありませんでした。ただ、コロナで世の中が大きく変化する中、「ヒカリノモリ」というビュッフェレストランをつくりました。その際、お客様のターゲット層を変え、コンセプトチェンジをする中では、いずれ自分が責任を取れるように、という思いは持って働いていました。
神丸
ご入社なさる前は別の会社に就職しようと思われたのでしょうか。
久保田
当初、この会社に戻ってくるつもりはありませんでした。大学は東京の大学に行っていて、就活中は、東京で就職する道と、地元に戻るという道の両軸で就職活動をしていたんです。
神丸
どちらを選ばれたのですか。
久保田
地元に戻ろうと考えました。大学で岩手出身といっても「岩手って何があるの?」ってなかなか地元のことを知ってくれている方がいなかったんです。なので、地元に戻って地元のために仕事がしたいなと思いました。入社したのは地元のリゾート運営の企業です。観光を通して地域のことを全国のみなさまに知ってもらえるような仕事ができればという思いでしたね。
神丸
もとから御社に戻ることを考えずに違う会社に入られたんですね。
久保田
そうですね。もともと両親からは戻ってくるなとも言われていたので、今の会社に入る選択肢はなくて。
地元に戻って地元をもっとPRしたくて前職の企業に入りました。
信頼関係のベースは感謝
神丸
社長になる前となった後で仕事への向き合い方は変わりましたか。
久保田
責任は全然違いますね。自身の考えや行動がちゃんと会社が目指す目的に合っているか、理念やビジョンに基づいた行動をしようと心がけています。
神丸
200年近く続く事業を継承されていますが、経営理念や行動指針は当初から変わっているんですか。
久保田
よく調べられていますね。現行の理念と行動指針は私が社長になって作ったものです。みんなでベクトルを合わせていくためには、企業の存在理由や考え方は大事だと思っています。
先代の社長の時も言い回しの違う理念がありましたが、根本的に言っていることは変えず、自分なりの表現に整理して、今の形にしました。
神丸
先代のお言葉には「ありがとうを大事に」という言葉がありましたね。
久保田
そうですね。私の父が作った理念が、ありがとう経営です。あとは元気提供業という理念を作っていました。現行のものも言っていることは同じなのですが、理念を「会社の存在意義」と定義し、その「理念実現のために大切にする考え方や行動」を行動指針と定義して、中身を整理し直しました。
神丸
お父様の時代から感謝を大事にされてきたんですね。
久保田
そうですね。なので行動指針の一番目にも感謝が入っています。お客様に対しても働いている者同士でも信頼関係を構築することが一番大事で、そういうチームじゃないといい仕事はできないですよね。信頼関係のベースは感謝にあると思っていますので、お互いに感謝を大事にというのは変わらずに大切にしている部分です。
神丸
お客様だけでなく仲間同士でも感謝が大切なんですね。
久保田
どちらかというと仲間に対する感謝のほうが大事かなと思っています。みんなで尊重しあって感謝の気持ちを言葉にして、お互い協力して仕事をする環境を作ることで、自然とお客様にも感謝の気持ちが芽生えてくるじゃないですか。ちゃんと連携が取れて、いいチームワークで接客していくほうが絶対にサービスの質って高くなると思います。
マニュアルでは表せない価値を考える
神丸
接客の質を高めるために何か意識されていることや共有されていることはありますか。
久保田
弊社の従業員が意識していることは、自分がお客様だったらというお客様視点を大切に、それぞれのお客様が笑顔になってくれることを考えることです。これをやればいいサービスになるといって画一的になるよりは、1:1でお客様のご要望に合わせていくことがいいサービスなんじゃないかなって思います。
神丸
教育制度やマニュアルはあるのでしょうか。
久保田
あります。しかし、目的は、マニュアル通りにすることではなく、お客様を笑顔にすることなんです。そのためのやり方ってたくさんあると思うので、マニュアルに頼るよりはそれぞれの良さをいかしてもらって、お客様に喜こんでいただけるような接客サービスをしていただきたいです。みんな実践してくれているので、本当にありがたいです。
神丸
従業員一人一人が意識されて、自分でアレンジを加えて接客されているんですね。御社の施設を拝見したときに、キッズサービスが充実していたり、お子様が楽しめるような工夫がたくさんされているなと感じました。なぜファミリー層をメインターゲットにしようと思われたのですか。
久保田
ホテル志戸平は173部屋あって、以前は団体のお客様がメインターゲットのホテルだったんです。ですが、10年前くらいから、どんどんお客様層が変わってきたんですね。ですから新しい価値を生み出すホテルにならないといけないよねという話になりました。新しくターゲット層を設定するときにペルソナを決めたんです。7歳と2歳の子供を持つ仙台市に住む30代の女性、櫻井さんというペルソナを設定しました。
神丸
そんなに細かく決めているなんてすごいですね。
久保田
このペルソナの櫻井さんご家族が旅に「なにをお求めなのか」を考えて、サービス設計をしていくんです。ホテルをリニューアルするタイミングだったので、食事はビュッフェなんじゃないかと考え、「ヒカリノモリ」というビュッフェレストランを作ったり、ラウンジを新しくしたり、部屋をリニューアルしたりして今までの大型温泉ホテルから、渓流リゾートになろうとコンセプトチェンジをしました。
神丸
コンセプトが大きく変わるんですね。
久保田
はい。リニューアルにあたり、ファミリー層をメインターゲットにしたのは、これまでのお客様層を振り返ると、団体のお客様以外では家族連れのお客様が一番多かったからです。あとは、東北全体を見たときにファミリーに特化しているホテルがありませんでした。ホテル内にプールがあったことも大きいです。その特性を引き立たせれば競争をうまない市場に参入していけると考えました。
神丸
独自性を考えられて今の形になっているのですね。マーケティングがすごいなと思ったんですけれども、マーケティングを学ばれていたんですか。
久保田
マーケティングが好きということもあって、MBA(経営学修士)等で集中的に勉強したということもあります。以前はこの業界も、マーケティングというよりセールスの考えが強かったです。旅行会社を通してお客様を送ってもらうことが主だったので、どうしても価格競争になってしまっていました。そうではなくて、お客様の目線に立って、こういうホテルだったらお客様は行きたいって思うよねって考えることを大切にしています。
神丸
ありがとうございます。納得感のあるリニューアルのお話でした。
いつの時代にも変化の時はある
神丸
コロナウイルスにより業界への影響ははかり知れなかったと思います。
御社はどのような状況になられましたでしょうか。
久保田
そうですね。大きな影響を受けました。緊急事態宣言も出て、お客様はお越しになれませんから売上がゼロになりました。なんとか乗り切るしかないという感じでした。
神丸
「ヒカリノモリ」がオープンしたのもコロナ禍ですよね。
久保田
はい。2020年の7月なのでコロナの真っただ中なんですよね。当初は4月オープン予定だったんですが緊急事態宣言が終わった7月に改めてオープンしました。当時はビュッフェレストランをつくったのにビュッフェができなくて大変でしたね。
神丸
コロナが落ち着いてビュッフェもできるようになってそこからどんどん人気が出てきたんですね。
久保田
お客様の中には、それでもビュッフェを食べたいって方が結構いらっしゃいました。バイキング用のレストランで最初はコース料理を出していたんですが、オペレーションも回らなくなってきました。そこでビュッフェをやってみたらお客様も反応してくれて、求めてくれていたんだなと思いました。
神丸
イチゴフェアやパン焼き体験など、いろいろなサービスがあったりすると思うんですが、サービスのアイデアは社員さん発案のものなんでしょうか。
久保田
はい。そうです。マーケティング部がある程度主導してイベントは企画します。あとは、新入社員や若手社員、ペルソナに当てはまる社員が所属する魅力向上委員会というものがあって、イベントのアイデアを出し、それをマーケティング部がまとめて進めていく感じです。
神丸
話し合いをされながら決めていらっしゃるんですね。時代が変わっても選ばれ続けるために大切にしていることや考え方はありますか。
久保田
事業を継承するときに、弊社の200年近い歴史を振り返ってみたんです。そして気づいた結論は、いつの時代もさまざまなチャレンジをしてきたなということでした。たとえば、昭和に遊園地をやっていた時期もあったんですよ。
神丸
そんなこともされていたんですね。
久保田
なんかこれ面白いなとか、お客さんが楽しんでくれるんじゃないかってことに時代ごとでチャレンジしていました。振り返ると失敗しているものもいっぱいあるんですが、現状維持ではなくて、何か新しいことをやってみようという姿勢があって今があるんだなと思います。「ヒカリノモリ」をつくったのも私にとってはチャレンジでした。
神丸
時代の流れで変わっていく社会やお客様の価値観に合わせて進化させていくことが大切なんですね。
チャレンジ精神が染みついているのだと感じました。
地元をもっと知ってもらいたい
神丸
失敗を恐れてしまうことはないですか。
久保田
恐ろしいことはたくさんあります。でもやってみないとわからないし、実行に伴う課題やデメリットを仮説を立てて、それでもやったほうがいいことを磨きこんでいきます。
神丸
今後も新たにチャレンジしたいことありますか。
久保田
渓流リゾートホテルというコンセプトをハード面ソフト面ともにある程度整えることができた3年間でした。この次はより付加価値を感じていただけるように、観光業である立場もいかして、地域とのつながりをより深め、地域の価値を磨いていきたいと思っています。
神丸
なぜそのようにお考えでしょうか。
久保田
旅にこられた方に地元のいいものを知ってもらうことが大事だと思うんです。これから地方ほど人口が減っていきます。観光に来る方々がその地域のことを知り、ファンになっていただけるようにしていくことが大事だ考えています。
神丸
具体的にお考えのことはありますか。
久保田
たとえば地元の農家さんとコラボして、レストランの中で野菜をお土産で買ってもらうとか、美味しいお酒もたくさんあるので、酒蔵さんの想いやストーリーなども知っていただきたいです。岩手とか花巻に素敵なものがたくさんあるんですよとか、素敵な仕事をしている方がいるんですよって伝えられるのがホテルや旅館じゃないかなって思うんです。年間何万人もの方が来てくれるので、地域の魅力もしっかり伝えて、価値を作っていきたいなって思っています。
神丸
地域を巻き込んでホテル業を通して魅力を伝えていくのが今後のビジョンなんですね。
考え方で人は変われる
神丸
御社に入社される方は、どのような思いをお持ちの方が多いですか。
久保田
ふたつあるなと思っています。ひとつは人を笑顔にしたい方、もうひとつは仕事を通して地域に貢献したいと考えている方です。ふたつがミックスしている方もいます。明るくて元気ですごくいい方ばかりです。
神丸
先ほど久保田社長も地域への貢献についてお話くださいましたが、社員の皆様も同じ思いで入社される方が多いのですね。
久保田
そうですね。大学生と高校生を採用していますが、大学生で特に県外に出ているような方は、地元で働くなら仕事を通して地元の役に立ちたいという思いで戻ってくる方が多いです。
神丸
御社で活躍している方々の特徴を教えてください。
久保田
明るく、前向きにチャレンジしていく方ですね。若手はみんな元気で、いろいろなことに取り組んでいます。みているこちら側が驚かされます。
神丸
そのような方々がいらっしゃるから素晴らしい接客に繋がっているんですね。
久保田
私にできるかなっていう接客をしてくれていますね。
神丸
社員の方々に働くことを通して、何を得てほしいとお考えですか。
久保田
そうですね。仕事のやり方はもちろんですが、人として成長してもらえたら嬉しいです。8つの行動指針も、考え方がメインなんです。これができる人って人間的に成長できるんじゃないかと思うことを、私が思う限り入れているんです。仕事を通して人間的にも成長してくれたら社会のためにもいいことですよね。そのためには利他的な行動が大事で、仲間のために、お客様のために役に立てることを考えることが大事かなと思っています。
神丸
人間的に成長してほしいとお考えなんですね。久保田社長にとって仕事とは何ですか。
久保田
重複しますが、仕事は人生の中で一番長い時間を費やすものなので、せっかく同じ時間を過ごすのであれば、その仕事を充実した時間にしてもらいたいです。最終的には幸せな人生を歩んでもらいたいです。そのような仕事って何なんだろうと考えると、3つあると思っていて。1つ目が人として成長すること、2つ目が仕事を通して誰かの役に立つこと、最後は仲間のネットワークを広げていくことです。
神丸
人とのかかわりが重要なんですね。
久保田
人間って誰かの力を借りないと何もできないんです。私も一人でホテルは経営できないです。働いてくれるみなさんが一生懸命働いてくれているから存続できるんですよ。だから仲間を大切にしてネットワークを広げていくと、できなかったこともできるようになってきて、よりお客様の役に立つ企業になれます。
神丸
私は今から就活を始めていくんですがまだ軸も何も決まっていなくて。まわりはお給料が高ければいいとか言っているんですが、やはり仕事は長い時間費やすのでやりがいを感じる時間にしたいと思っていましたのでとても共感できましたし、納得しました。
久保田
そうですね。一日のうち8時間、通勤とかも含めたら9時間くらい仕事をするわけです。つまらないと思いながら40年くらい仕事をするのと、やりがいがあっていい仲間たちに恵まれているって思って仕事をするのとでは、60歳になって振り返ったときの充実感が全然違うと思います。だから何のために仕事をするのかはしっかりと持ったほうがいいです。
神丸
就活時代の久保田社長も今のようなお考えをお持ちだったのでしょうか。
久保田
ここまでは考えていなかったですね。やりがいがある仕事がしたい。とは思っていました。
自分にとってやりがいがある仕事って何だろうというのはずっと向き合っていましたね。働く環境や将来も考えて地元で仕事を通して地域に貢献できるような仕事がしたいと思っていたので、Uターンを決めました。
神丸
わたしも、何がやりたいかを自己分析で探していきたいなと思います。
久保田
いろいろな業界や企業を見るといいと思いますよ。お金も大事ですがバランスだと思います。最終的には自分がしたことに自分以外の誰かが喜んでくれるってことがやりがいになるんじゃないでしょうか。
楽しむに限る
神丸
学生の間にやっておいたほうがよかったことはございますか。
久保田
特に弊社で言うと、楽しいことをたくさんしてほしいです。弊社は楽しさを売る仕事なので、旅行、キャンプ、レジャーなどの経験も将来的に絶対活きてきます。遊びに行ったときにテンションが上がったという経験は、人のテンションが上がるタイミングを学べますし、アイディアの視野を広げるためにいろいろなものを見ていたほうがいいと思うので、遊びに行ったり見てみたり、いろいろな人の話を聞いてみたり、そういったことですかね。
神丸
遊びも将来にいきてくるんですね。これからもたくさん遊びに行こうと思います。
久保田
社会人になるとある程度時間が限られてくるので、自由に時間を使えるのは学生の特権です。いろいろな経験をしてください。
神丸
今の時間は学生のうちしかないということが身に沁みました。大切にしていきたいと思います。最後になるんですが、今後御社を志望する学生に一番伝えたいことはございますか。
久保田
一言でいうと、「仕事は楽しくやろうよ」ですね。せっかく同じ時間を過ごすのであれば、充実したものにしてもらいたいし、一緒に楽しく仕事をしたいなと僕も従業員も思っているので、共感する人は飛び込んできてほしいなと思っています。
神丸
ありがとうございました。
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