武蔵大学4年生
藤瀬 咲
福田刃物工業株式会社
福田 克則
学生と経営者がお互いに意見交換しながら、相互理解を深めるHR sessionの対談コンテンツ。
今回は、福田刃物工業株式会社の代表取締役社長 福田克則様に、お話を伺いました。
武蔵大学人文学部。2022年4月より株式会社クイックで就業予定。就活では初期IT業界中心に活動していたが、大学3年3月ごろから人材業界に転向し活動。大学では男子ラクロス部のスタッフとして活動。趣味は夜散歩と旅行。最近は、日記をつけることの習慣化を目指している。
17歳のときに渡米。アメリカの高校・大学を卒業後、1992年にNECに入社。5年間の勤務を経て1997年に福田刃物工業に入社。2013年より5代目となる代表取締役社長に就任。社長業の傍ら、小学校から大学まで学生に向けた講演活動の実施や企業研修の講師も務めている。
目次
藤瀬:
本日はよろしくお願いします。最初に簡単に福田様についてお話いただけますか。
福田:
福田刃物工業の代表取締役社長の福田と申します。8年前に社長になって、私で5代目になります。
藤瀬:
社長に就任する前はどんなお仕事をされていたんですか。
福田:
新卒でNECに入社して、5年働いたあとに、福田刃物工業に入社しました。社長の期間も含めて24年になりますね。
藤瀬:
福田様が就職された頃を振り返るといかがですか。環境はいまと全然違いますか?
福田:
経緯は省きますけれど、私は高校と大学がアメリカだったんですね。最初はアメリカで就活したんですが、ちょうどアメリカは就職氷河期のような時期でした。対して日本は、いわゆるバブルの時代。
藤瀬:
それで日本に戻って就職されたんですね。
福田:
そうです。当時は異常に景気が良くて、わざわざアメリカまで面接に来てくれるくらいの対応でした。だから私自身は、就活で最近の学生さんのような苦労はしていません。
求める人物像はない。働きやすさもアピールしない。
藤瀬:
御社を志望する学生に、福田様はどんなことを求めますか。たとえば求める人物像など。
福田:
実は、求める人物像はないんですよ。おこがましいと言うか。当社が日本や世界でNo.1の企業なら何とでも言えますが、現状はわざわざエントリーしてくださるだけでありがたいと思っています。もちろん私自身、会社は好きだし誇りにも思っていますが。
藤瀬:
求める人物像がないのは珍しいですね。逆に、学生さんを惹きつけるために、どんなことをアピールされていますか。
福田:
業績や製品力など、数字や事例で語れる話が中心ですね。
藤瀬:
御社は休日が年間122日で住宅手当もあるので、働きやすい環境だと受け入れられやすいと思います。待遇面のアピールはあまりしないですか?
福田:
データとしては公開していますが、働きやすさを強調することはないですね。私が就職したときに、入社前に聞いていたのと実際の体験にギャップを感じた経験があって、働きやすさは人それぞれだと思い知ったんです。休みや制度よりも、社風や考え方などの相性が大事だと思っています。
目指すのは、自由に働ける環境。社員を縛る経営理念もない。
福田:
うちは非常に自由な社風です。たとえば、営業で言えば目標やノルマがない。いつどこに営業に行きなさいという命令もない。社員一人ひとりが自分の頭で考えて計画を練り、行動しています。これが天国だと言う人もいれば、指示がなくて不安で苦痛だと言う人もいます。
藤瀬:
自由度の高さはメリットではなくて、企業の特徴ということですね。人によって、プラスにもマイナスにもなる。
福田:
そうですね。社員が「うちは働きやすいです」と話すのは全然構わないです。でも、会社を代表する私が言うと押しつけになる、というのが私の考えです。社員それぞれの考えがあるからです。私自身が、考えを押し付けられるのが嫌なんですね。だから、採用サイトなどでよく訴求されている、経営理念のようなものもありません。
藤瀬:
目標がなく理念もないと、入社前にどんな会社なのか実態がつかみづらそうです。最近は、理念に共感する企業に入社したいと考える学生も多いですし、求める人物像もないので…。
福田:
分かりにくいですよね。実際よく言われます。でも、理念がそこまで重要だとは私は思わないです。もちろん、理念経営で成功している事例がいくつもあるのは知っていますし、私も大学で勉強もしました。でも、理念とは人に与えてもらうものなのかが、私には疑問です。社員には、自らの意思、理念で動いてほしいんです。他人の理念に縛られることなく。
就活生は、企業理念を気にしすぎではないか。
藤瀬:
理念が必要ないという考え方は、さきほどおっしゃった自由度の高さとも関連しますか。
福田:
それもあるのですが、ここ20年間、日本の企業は毎年70%が赤字です。この間、日本人は企業理念を大事にしてきましたが、業績には結びついていない。理念云々の前に、企業としての製品やサービス、営業が素晴らしい、そして確実に成長し利益を上げていることがまず大前提だと思います。だから就活で理念を気にしすぎるのは、ちょっと厳しい言い方になりますが、精神的に企業に依存していることになるのではないかと思います。
藤瀬:
なるほど…。
福田:
いやいや、共感しなくていいですよ(笑) あくまでも私の個人的な考えです。私一人の考えをみなさんには押し付けたくないので。
藤瀬:
ありがとうございます(笑) ただ、社長のおっしゃる自由がある状態は、そのぶん責任も重いように感じます。
福田:
責任はありますね。でも自由にできるという権限もあります。
藤瀬:
責任を負いながらも、自由なやり方で成果を出している方のモチベーションは、どこにあるのでしょうか。
福田:
仕事で何か失敗したとしても、社員個人が責任を負うわけではありません。責任というのは、いわゆる精神的なものです。だから、成果を出している人からすれば、失敗しても何とも思わないんじゃないでしょうか。次に活かせばいいと頭を切り替えられる。
企業理念とは、仕事を通じて感じ取るもの。
福田:
たとえばコストをかけて出張に行ったけれど、何の契約もできなかったとしましょう。ダメな会社は、きっとその行動を否定するんですね。無駄だとか、やり方が間違っているとか。うちはそういう対応はしません。よく頑張ったね、よくそんな無茶したなと。やり切ったことに対してさらに応援します。
藤瀬:
前向きで、ポジティブですね。
福田:
それはありますね。
藤瀬:
そのポジティブな考え方や社風を体現するために、立ち返るものとして、まさに理念や社長のお言葉が必要になるのだと思っています。理念と呼んでいなくても何か考え方のベースになるものがあるのではないでしょうか。
福田:
おっしゃる通りですね。言葉にして掲示したり、唱和したりすることに意味を感じないだけで、考え方自体はあるのだと思います。説明会でも講演でも話しますから。ただ、それは本来、教えられるものじゃなくて、仕事をしていくなかで自ら感じるものなのでしょうね。
藤瀬:
説明会などで話を聞かれた学生さんはどんな反応になるんですか。
福田:
うちは福田刃物工業という、学生さんからするととっつきにくい社名ですから、エントリーしてくださる方は、そもそも私たちの事業に興味がある方が多いです。工場もありますから見てもらえたら一目瞭然です。興味本位のエントリーがほぼないので、これまでお話したような考え方の部分で引っかかる方はいないですね。
藤瀬:
ちなみに御社にエントリーする学生に傾向はありますか。こんなタイプの方が多いなど。
福田:
地元に住んでいて、昔から知ってくれている人が多いです。学校で講演をする機会も多いので、そこで認知してもらって、という入社の流れもあります。すごい人になると、自宅に炉を作って刃物を自作するくらい研究に没頭している学生さんもいたりしますね。
藤瀬:
すごいですね。その方はどうやって、御社のことを知ったんですか。
福田:
昔、NHKで取材していただいたときの番組を見て知ってくれたみたいです。新卒なので、入社はこれからですが、当社のベテラン技術者も一目置くほどで、期待の新人ですね。
自由から生まれた社員の自主性こそが、最大の強み。
藤瀬:
御社はメーカーですが、営業職の割合が多いですよね。なぜ営業職が重要だと考えられているのでしょうか。私も営業職として就職が決まっているので、参考にできればと思います。
福田:
当社の本社がある関市は刃物の産地で、刃物を扱う会社がたくさんあります。ただ、どこも主要な取引社数は非常に少ないです。特定の企業からの大量発注を受けているだけです。
でも、特定の企業に依存した経営をしていると、コロナのように景気が悪化したときに、取引先の業績が下がると自社の業績も連動して悪化してしまいます。
藤瀬:
御社は取引先が多いのですか。
福田:
当社は年間1700社、新規だけでも毎年300社くらいのお取引があります。
藤瀬:
すごいですね。でも、取引先が多いと管理なども大変そうです。
福田:
当社は全員が正社員ということもありますし、お伝えしてきたように、一人ひとりが自ら考えて行動します。いちいち指示をもらわなければ動けない組織だったら、このような対応は難しいかもしれないですね。
藤瀬:
昔から営業職の割合は高かったんですか。
福田:
昔は、営業を代理店任せにしていた時期もあります。しかし、それでは自社の強みが活かされないと考え、15年ほど前から少しずつ直販の割合を高めてきました。
結果的に、直接お客様のご要望をお聞きして、製品のプレゼンテーションをするのが付加価値になりました。細かい要望、難しい要望にもお応えできることで、多くのご依頼をいただけています。
自由を楽しむためには、練習が必要。
福田:
ちなみに、藤瀬さんから見て、当社のノルマも売上目標もない営業をどう思いますか。
藤瀬:
自由度が高いぶんやりがいは大きいと感じますが、少なくとも慣れないうちは目標があったほうが働きやすいかもしれないです。達成したときに、周囲の人にも認めてもらいやすいですし、モチベーションもあがりそうです。御社では目標が設定されないとのことなので…、どこを目指したらいいのか戸惑いますね。
福田:
まあ戸惑いますよね。私も新卒でうちのような会社に入ったら戸惑うはずです。少し話は変わりますけれど、私は、44歳でサックスを習い始めたんです。いま53歳で9年続けていますけれど、いまだに先生の考えを聞きたい、教えてもらいたいと思ってしまいます。
藤瀬:
経営は自由にできても、音楽だと同じようにはいかないんですね。
福田:
そうなんですよ。経営では、自由が良い、自分で考えようと言っているのに、音楽になると自由が辛くなって先生の言葉が欲しくなる。先生には「福田さんがやりたい音楽を自らイメージしてほしい。私はそれを支援する立場ですよ」とよく言われます。
藤瀬:
自由であることにも慣れが必要で、練習しないといけないんですね。
福田:
そうかもしれないです。急にはできないから、自分はどうしたいかを考える訓練をしたほうがいいと思います。わからなければ先輩や上司に聞く。
若い人は、もっと自分を出していいと思いますよ。失礼になるとか、間違っていたらどうしようとか。変に気を遣いすぎる人ほど、自由な環境に馴染めず苦しんでいますね。
志望職種は決まらなくても、どんな大人になりたいかは考えられる。
福田:
最近の学生さんはどうですか。やりたいことに挑戦できていますか?
藤瀬:
自分のやりたいことを中心に考えて就活できている人は少ないと思います。給与や休日など環境ありきで選ぶ人が多いです。そのせいか、私の周りでも、仕事が合わなくて早期に退職する先輩が少なからずいます。
福田:
ご縁があって、4年前から小学校の先生の面接官をしているのですが、面接していて感動することが多々あります。先生志望の方々に、いつ先生になりたいと思ったのか質問すると、ほとんどの方が、小学生から中学生のときだと言うんですよ。
だから、我々大半の就活の世界とは根本的に違うんですね。先生になる人の多くは、給与や休日のような発想がない段階で将来を決めている。私なんか、NECを選んだのは、当時、半導体で世界No.1の会社だったからです。それだけですよ。
藤瀬:
早い段階で自分のやりたいことに気づけたほうが楽しい人生になるのだと思いますが、いまの大学生には難しそうですね。
福田:
こんな職業になると決められなくても、せめてこんな社会人になりたいという理想像は、早い段階で持てると良いかもしれないですね。
活躍するのは、他人に興味を持てる人。
藤瀬:
社員の方の自主性に任せる経営をされているなかで、社長としての役割や業務はどんなことになるのでしょうか。
福田:
中小企業の経営者はトップ自らが営業する方も多いですが、私は一切しないですね。営業にも製造にもタッチしません。私は専門家ではないので、特に意見することもないですよ。私が自由でありたいから、社員にも自由に働いてもらっている節があるので、改めて問われると、これといった業務はやってないですね。
藤瀬:
特定の業務はないということですが、社長が普段、気にかけられていることはありますか。
福田:
それで言うと人財に関係するところは注目しています。説明会に登壇して話しますし、社員と食事に行って話を聞いたりもします。あとは、廊下で社員とすれ違ったときには、積極的に立ち話もするようにしていますね。
藤瀬:
社長から見て、入社後に活躍される方の特徴というのは何かありますか。
福田:
特徴は人を助けることですね。あとは真面目、真摯な性格。曲がったことが嫌い。だから時々、口は悪かったりもするんですよ。でも、何だかんだ言いながら、仕事はきっちりやって周囲の人のサポートもしていると。そんな感じですね。
藤瀬:
人を助ける方のほうが、仕事のパフォーマンスも高いんですね。
福田:
そうです。それだけ周りのことがよく見えているんでしょうね。周りをよく見ているから内省もするでしょうし。一度、聞いたことがあるんですよ。「自分の仕事だけでも大変なのに、なんで周りのことも助けるの」と。そしたら「分からないけど、やりたいからやっているだけなんです」と。
藤瀬:
ご自身の意思で動かれているんですね。
福田:
おっしゃる通りです。人に関心を持てるかどうかは、うち以外の企業においても、仕事において重要な要素だと思います。
*
藤瀬:
本日はお忙しい中ありがとうございました。理念がなくて、自由な働き方で。世の中には、こんな考え方の会社があるんだという発見がありました。あとは、私自身、環境に成長させてもらうという甘えがあったので、社会人になる前に気づけたのは良かったと感じました。
福田:
こちらこそありがとうございました。私も色々勉強させてもらいました。ただ、今日、私がお伝えしたことは、信じなくていいですからね(笑) 自分の人生は、自分が作っていくものなので、こんな意見もある、くらいに受け止めていただけると良いのではないかと思います。
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