同志社大学4年生
佐藤 亮
岐セン株式会社
後藤 勝則
学生と経営者がお互いに意見交換をしながら、相互理解を深めるHRsessionの対談コンテンツ。
今回は、岐セン株式会社の代表取締役社長 後藤 勝則様に、お話を伺いました。
同志社大学商学部。2023年4月より株式会社クイックで就業予定。就活では人材業界を中心に活動。大学3年生の際にもこのインターンシップに参加していた。趣味は筋トレ。最近はマリーゴールドの弾き語りに苦戦中。
1981年に福井大学工学部繊維染料学科を卒業後、入社。現場、色合わせ、技術開発を経験。その後、商品開発に従事し新素材に対応した技術的ブレークスルーに携わる。海外技術指導の後、2005年に技術士取得をへて工場長として工場運営を経験。2015年に社長に就任。
目次
はじめはあまり興味が無かった
佐藤
後藤様は大学から繊維染料学科で学ばれていますよね。高校生の時から染色に興味がおありだったんですか。
後藤
いいえ。全く興味ありませんでした。一度地元を出たいという想いと学力的に行けた学部だったことが大きな理由です。染色業界は当時から厳しい業界でしたが日本で唯一の学科であったことに惹かれたことも事実です。
佐藤
そうだったんですね、意外でした。興味があまりなかったことを学問として学び、繊維染料への想いは変化しましたか。
後藤
大学1年生の時、恩師である先生に出会ったことは印象に残っています。繊維染料について学べる大学は日本で唯一でしたし、世界でもトップを狙えるような学びを得られると言われました。そこで学ぶことにも意欲が出ました。
佐藤
では、大学生活では熱心に学ばれた訳ですね。
後藤
実はそうではありません。2年、3年生の時は大学生活を過ごす中で繊維染料への興味はだんだんと薄れていきました。
佐藤
そうなんですね(笑)。大学生ではよくあることかもしれません。
この道を選んだ理由
佐藤
ではなぜ仕事も繊維染料の道を進んだのですか。
後藤
大学4年生の時、卒業論文を書くにあたって改めて繊維染料に真剣に向き合いました。その中で理解も深まりだんだんと楽しくなりました。しかし、私が就職した時代はこの業界が世界に羽ばたいていた時代は終わり、衰退し始めた時代でした。
佐藤
そんな中、なぜ御社をお選びになられたのですか。
後藤
Uターンをし、企業を探す中で自分の学びを活かせる企業だと思ったからです。当時は今のように業績などをインターネットで調べ、将来性などを考えて計画的に就職するということはしていませんでした。我々の時代は現場で経験を積まなければ開発などはさせてもらえない時代でした。
佐藤
職人気質がまだある業界だったのですね。
後藤
そうです。なので給料なども深く考えていませんでした。今振り返ると考えが甘かったとも言えるかもしれませんが、仕事にはしっかりと向きあっていました。
迷いはあった、でも真剣に向き合った
佐藤
働く中で仕事に対する迷いなどはありませんでしたか。
後藤
正直ありました。若い頃はこの企業でいいのか、この仕事でいいのか悩んだこともありました。ですが目の前の仕事を一つ一つ成し遂げたことが良かったと今は思います。仕事に対する達成感を一番実感したのは、弊社の苦難を乗り越えた経験です。
佐藤
詳しく教えて頂きたいです。
後藤
バブルがはじけ、弊社でも大きなリストラがありました。そのような苦しい状況の中で、海外での技術指導で技術を高めました。そして技術を棚卸するため技術士の資格を取ったことは大きかったです。
佐藤
企業のためにも技術士という資格を取ったわけですね。
後藤
はい。大きなリストラがあった際、企業に残らない選択肢もありましたが、年齢も踏まえこの企業で働こうと決意しました。その後課長や工場長なども任されるようになりました。
役職が上がり変わったこと
佐藤
工場長は誰でもなれるわけではないと思いますが、選ばれた要因は何だとお考えですか。
後藤
年代的にあまり人数がいなかったからね。自分が行くしかないと思ったことも事実です。ですがこの職につくことで自分自身も変わったと思います。
佐藤
どのような変化でしょうか。
後藤
見る立ち位置が変わったことです。責任も変わってきましたね。
佐藤
マネジメントする立場に視点が変わった訳ですね。仕事に対する想いはどう変化しましたか。
後藤
想いというか、企業の業績が身に染みるようになりました。ただ一方で工場全体をみているので、自分のしたいことが権限の範囲内でできることは魅力的に感じました。
佐藤
どんなことに挑戦されたのですか。
後藤
新しい素材の染色や加工に積極的に挑戦し、新しい分野に進出することです。もちろん障壁はたくさんありましたが、挑戦してよかったと思います。色々な設備に対しても自分の想いがこもりました。また、お客様の声も直に入るようになるので、お客様の要望に答えようとする気持ちが芽生えたことも良かったと思います。
目の前の仕事から何を学べるのか
佐藤
責任感を持つことは苦しくもあり、楽しくもあったわけですね。
今までお話を聞いていて共通していることは、目の前の仕事に全力で取り組むということですね。
後藤
そうなんです。それが一番。だから若い人に言えることは簡単に諦めるなということです。与えられた仕事をどうこなすか、どうやりきるか、どう工夫するか。それをやれる人が企業で活躍するだけではなくて、人生の中で活路を見いだせるかということにつながっていると思います。
佐藤
確かに今の時代は自分のキャリア形成を意識しすぎて簡単に転職しすぎているのかもしれませんね。
後藤
企業に入るとすぐにキャリアプランを示してくれと言う方がおられるけれども、自分で考える必要があると思います。若い社員の方でも「この年齢の時にこの立場でなければ一人前じゃない」ということは分かるはずです。もちろん悩むことはたくさんあると思います。でも辞める前に一呼吸置き「この環境で学ぶことはもうないのか」と考えることは大事だと思います。
佐藤
未来のことを考えて行動することはもちろん大事だけど、環境のせいにせず目の前のことから何を学ぶのかという姿勢も同じように大事ということですね。
後藤
そうですね。仕事ができる人はその考え方があると思います。
活躍する人の共通点
佐藤
それは御社でも共通していますか。
後藤
はい。ですが得意不得意が分かれている方もおられます。なので企業側がその人の適性を見抜き、仕事を与えるパターンも多いと思います。現代は能力主義と言われますが、その能力を見極めることもなかなか難しいと感じます。
佐藤
御社では、なんでもできるタイプの方も、得意不得意がはっきりしている方もいらっしゃるけども、活躍するための共通点は目の前の仕事に本気で取り組めるかどうかということですね。
後藤
そうです。では企業に適性を見抜いてもらうためにはどうすればよいか。やはりコミュニケーションを取ることだと私は思います。
佐藤
適性を周りに分かってもらうためにということですね。
後藤
そうです。やはりコミュニケーションを取っていなければ、どれだけ目の前の仕事を一生懸命していても、評価されなかったり、だんだんと言われたことをやっているだけになってしまうと思います。それが若い方の離職にも関係していると思います。
上司も部下も話しかけてほしい
佐藤
御社ではコミュニケーションを活発化するためにどのような工夫をされていますか。
後藤
挨拶を積極的にするようにしていますが、なかなか活発化していないのが課題ですね。若い方がこうしたいと意見を言える職場環境をつくりたいです。上司に意見をいうことは難しいかもしれませんが、私は意見を言ってほしいと思っています。
佐藤
確かに、上司の方に意見を出すのは勇気がいります。生意気だと思われないかとか。だから上司の方から話しかけていただく方が私は嬉しいです。
後藤
上司からしても、若い方に話かけるのはなかなか難しいんですよ。話題性にも乏しいし。
できるだけ近い年齢同士でコミュニケーション取るのが望ましいと思うんですが、コロナやハラスメントの問題で最近は若い方にどう接したらいいのか分からなくなっています。佐藤さんはどう思いますか。
佐藤
私は関係性を深めることが何よりも大事だと思います。何か強く言われたとしても、関係性を構築できていれば、自分のためを思って言ってくださっていることが理解できると思います。その関係性を築くには自己開示が大切だと思います。
後藤
やっぱりいろんなことを話すことが大事ってことですね。
佐藤
私はそう思います。プライベートなことなども話せる範囲で話し、自己開示することが関係性を深めるためには重要ではないでしょうか。
後藤
なるほど。早速参考にさせて頂きます。
「なりたい」よりは「なったからには」
佐藤
だんだんと役職が上がっていき、最終的には社長になられましたが、社長になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
後藤
一つは前任の社長を尊敬し憧れたことです。もう一つは染色業でもう少し挑戦していきたいという想いです。また、私が適任だと勝手に解釈してました。
佐藤
社長にはなりたくてなりましたか。
後藤
なりたくてなったというよりかは、なったからには一生懸命取り組もうという感じです。まだまだ勉強不足で様々な壁にもぶつかっていますが一生懸命取り組んでいます。
佐藤
困難があっても社長という責任に向き合い続けるのはどんな想いからですか。
後藤
社員の期待を背負ってるからね。でもそれに十分応えられているかといえばまだまだだと思います。経営というところを学ばずに社長になったので、コロナなどで売り上げに影響がでるなか、打開策を見つけられず社員の皆さんには迷惑をかけてしまったと思っています。ですが社長になったからには企業のTOPとして率先して行動する覚悟は常にあります。
佐藤
社長も企業とともに成長されているし、社員の方も社長や企業とともに成長できる企業だと感じました。
服の色は総合化学から生まれる
佐藤
染色業界に学生が興味を持つのはなかなか難しいと思うのですが、どういった方が御社を志望されますか。
後藤
最近の傾向では女性が多いです。インターンシップも90%が女性です。なので女性が働きやすい職場にしたいと考えています。実際に色合わせや検査はほとんど女性がしています。今後は開発、営業、技術者などもより女性が活躍できると思っています。
佐藤
女性に人気があるのは意外でした。
後藤
毎日の作業は楽しいことばかりではないと思いますが、弊社は染めることで機能を追加したり、生地の加工もしていますので、そこに魅力があると思います。
佐藤
今の話を踏まえて、御社にどんな方に来てほしいですか。
後藤
化学系が得意な人ですかね。弊社はファッションとはギャップが大きいと思います。染色業は総合化学なんですよ。化学系で染色に興味を持っている方に来ていただければ嬉しいです。
佐藤
御社はただ色を染めるだけの企業ではなく、機能を付加価値としている企業だと思うので、染色から生活を支えることに興味がある方も良いかもしれませんね。
後藤
そうですね。防衛省などとも取引させて頂いています。用途によって様々な染色をすることで社会に貢献しているのでそういったことにも魅力を感じて頂ければと思います。
ゴミを拾うことから得られるもの
佐藤
後藤様が社員の方に伝えられる大切なことは何でしょうか。
後藤
気づきが大切だということですね。
佐藤
具体的にどういった気づきですか。
後藤
一番簡単なのはごみを拾うことです。大谷選手はごみを拾うことは運を拾うことと言っています。そんな考えができるなんてすごいよね。弊社も去年から始めて少しずつ成果は出ていて、コミュニケーションなども少しはするようになりました。やっぱり整理整頓することで気持ちが変わってくると思うので。
佐藤
ゴミに気づくことは業務に置き換えると、日々の業務で改善点に気づけたり、染色で新たな機能を追加できるのではと気づけるようになるということでしょうか。
後藤
そうそう。そういう風に最終的には結びつくと思います。私も工場などにいったら必ずごみを拾うようにしています。
社長が考える理想の企業
佐藤
企業の経営者として一番大切になさっていることは何でしょうか。
後藤
情熱を失わないことですね。今はコロナなどの影響で消極的な気持ちになることも多いですが、決して情熱や意欲を失わないように気をつけています。
佐藤
どういった情熱でしょうか。
後藤
弊社全体をさらに盛り上げていきたい。従業員と社会に貢献できる企業にしていきたいという情熱です。今弊社は80周年だけど、100周年に向けてやろうという気持ちだね。
佐藤
その気持ちはどこから来ていますか。
後藤
社員全員に幸福になってほしいからですね。企業の理想の姿は社員が幸福であることだと思います。社員を大切にしなければ、モノづくりを大切にする企業はやっていけない。中小企業は社員全体が一丸となることが大切ですね。
人生での「選択」が正しくなるように努力する
佐藤
最後に就職活動をしている学生や、御社を志望している学生にアドバイスがあればお伺いしたいです。
後藤
偉そうなことを言って申し訳ないですが、実益で企業を選択することはさることながら、どういう仕事をしたくて、どういうことを目指したいのか一度考えてみる必要はあると思います。あとは考え方を学ぶことも大切ですね。1年で一回でもいいので自分の考え方を整理してみることは大切だと思います。好奇心を持ち学ぶ姿勢を忘れないことも大切です。
佐藤
ある程度自分のやりたいことを見極めるのも大切。ですが入社した後は環境や周りのせいにせず、目の前の仕事やこの環境で何を学べるのかを考え努力することが大切。また自分の考えを見直したり更新するためにも本を読むこともいいのではないかということですね。
後藤
そういうことです。自分が若いころできていたわけではありませんが、振り返ってみるとそれらのことは大切だと思います。
佐藤
目の前の仕事に一生懸命取り組むことから成長し、役職が上がることでよりレベルの高い仕事に挑戦し、さらに成長する。その結果が今の後藤様であり御社ということですね。
後藤
そうですね。大げさかもしれませんがその考え方は重要だと思います。
佐藤
私も環境のせいにせず、目の前の仕事から何を学べるのかを考え全力で取り組むことで成長していこうと思います。貴重な学びを得させていただきました。本日はありがとうございました。
後藤
こちらこそありがとうございました。
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