早稲田大学2年生
丸山 裕喜
有限会社亀山温泉ホテル
鴇田 英将
学生と経営者がお互いに意見交換をしながら、相互理解を深めるHRsessionの対談コンテンツ。
今回は、有限会社亀山温泉ホテルの代表取締役社長 鴇田英将様に、お話を伺いました。
早稲田大学社会科学部。2025年卒業予定。大学では剣道部に所属し日々鍛錬している。専攻は会計学、金融工学で、就活では金融業界を中心に活動中。将来の夢はヘッジファンドの帝王。
1979年12月、創業70年になる温泉旅館の三代目として誕生。大学卒業後は群馬県伊香保温泉に修行のため5年従事、退社後は世界を見たいとオーストラリアを旅する。2008年家業に戻り10年の下積みののち2018年代表取締役就任。現在43歳。夢は房総NO1のビジネスオーナー。
目次
丸山
本日は貴重なお時間いただきまして、ありがとうございます。早稲田大学社会科学部2年の丸山と申します。よろしくお願いします。
鴇田
はい、よろしくお願いします。
実家に戻ってきて感じたギャップ
丸山
まず初めに、鴇田社長が貴社に入社された経緯についてお伺いしてもよろしいでしょうか。
鴇田
端的に言うと実家だったからです。弊社は創業70年になりまして、昭和25年から旅館業を営んでおります。私の祖父が事業を始めました。18歳の大学生になる前に、両親に家業を継ぐと伝えました。大学では割と自由にしていて、その後は別の旅館で経験を積み、28歳で亀山温泉ホテルに戻ってきました。
丸山
家業でしたら、そのまま入社することはできたと思いますが、そこでなぜ別の会社を挟んだのでしょうか。
鴇田
親元で働くのは甘えになるからですね。社会の一般常識、社会通念を身につける意味でも、別の会社を一度経験するべきだと考えました。っていうのは建前で(笑)。本当は22歳で家に帰るのはつまらないと思ったからです。自分の人生が型にはまるような気がして。もっといろいろ経験したかった。そして、いずれ継ぐということを加味して、同じ業界で修業を積むことにしました。
丸山
建前と本音があるのですね(笑)。経験を積んだ後、家業を継いだ際に何かギャップなどは感じましたか。
鴇田
もう、全てです(笑)。すごかったですよ、ギャップは。たとえて言うなら、高級フレンチを期待していたのに、海の家のラーメンが出てきたみたいな。すごいギャップです。でもその分、楽しみでもありました。これから変えていけるのではないかと。
丸山
苦しんだ具体的なエピソードはありますか。
鴇田
高齢のパートスタッフだけだったので、非常に作業的で料理を出すときにお客さんに喜んでもらおうとか、おいしい料理を出そうという気持ちが全然ありませんでした。とにかく、お客様の声に対して真摯に向き合っているようには感じませんでした。
長期的目線がカギ
丸山
そのような状態から、今のように改善するためにどのような取り組みをされたのでしょうか。
鴇田
まずは自分がSNSで外部への情報発信を続けました、時間と志をともにしてくれる人間が入社して、少しずつ流れを変えて行けました。自分に賛同する人を増やす。そして声をかけて入ってくれた人間が行動してくれる。だから時間はかかりましたが、改善はしましたね。逆に、一気に変えることは正直無理だと思っています。
丸山
やはり改善には時間がかかったのですね。
鴇田
はい。本当は一気に変えたいですが焦るとひずみも大きくなります、人間はそう簡単に変われません。なので徐々に時間をかけて、長期的目線をもって達成していくことが私は重要だと考えています。
丸山
確かに人間はそんな簡単には変わらないですよね。
鴇田
本当に短期目線はよくない。こっちが指摘したから相手が変わる、というのは幻想です。
相手が変わるには変わるタイミングがあります。だから、言い続けることが大事です。相手がいつかくみ取ってくれると信じてやり続ける。苦しいですが(笑)
挑戦してほしい、リスクは会社が負うから
丸山
貴社は社員を大切にしていて、社風がよいと伺ったのですが、なぜそのような環境を実現できているのですか。
鴇田
社員にいろいろな挑戦する機会を与えているからですね。弊社の社風を表す言葉に「成長・挑戦」というものがあります。何かをやるときにできないことってあると思います。でもできないのは当たり前です。そして、できるようになった時が成長です。できないから怒る、諦めるのではなく、できるようになるにはどうするべきかを考えてもらっています。
丸山
挑戦したいと思ったことは、やらせてもらえる環境にあるということでしょうか。
鴇田
そうですね。私は人の数だけ仕事が作れると思っています。例えば、バーテンダーをやってみたいという社員がいたら、似たようなことをやらせてあげたいと思いますね。それで失敗したら、なぜ失敗したかを分析してまた挑戦させます。分析の結果、コミュニケーション力不足なら、コミュニケーションのセミナーを受講させてあげるなどします。
丸山
それは挑戦したい人にとってはいい環境ですね。社員が発端となってうまくいったビジネスなどはあるのでしょうか。
鴇田
一番大きいものだと、調理スタッフの料理パフォーマンスの向上。お客様の評価がガツンと上がりました。挑戦するときはリスクがつきものですが、そのリスクを弊社が肩代わりしてあげています。「後ろ盾として亀山温泉ホテルがついているから、やりたいことをやってね」というようになっています。
目指すはホールディングス化
丸山
旅館業でここまで挑戦させてもらえるところは、貴社のほかにないですね。宿泊施設だけでは片付けられない、成長ベンチャー企業のようです(笑)。挑戦をさせていく社風をつくることで、今後会社をどのようにしていきたいと考えていますか。
鴇田
最終的にはホールディングス化したいと考えています。亀山温泉ホテルという旅館を営業している会社なのか、亀山温泉ホテルという会社が運営している旅館なのかということですね。今までは前者でしたが、旅館業は事業の一つに過ぎないと思っています。例えば、「トキタリゾート」という名前にしたらわかりやすいです。トキタリゾートがやっている旅館、お土産屋、インフラなどなんでもありです。私はその方向にもっていきたいと考えています。
丸山
ホールディングス化ですか!これはキーポイントですね。
鴇田
まさしくその通りです。
料理の破壊力が半端ない
丸山
話が変わりまして、2008年に宿泊単価9,000円、稼働率30%、口コミ評価2.9だった状態から、2021年には宿泊単価20,000円、稼働率60%、口コミ評価4.5へ変貌を遂げられましたが、ここまで成長させることができた要因はなんでしょうか。
鴇田
いろいろな勉強会に出席したり、旅館業で成功している方にお会いする中で、もっとできることがあると思ったんですね。そして特に客室単価を上げることが本当に重要だと学びました。一番の変化は2019年から2020年です。コロナと台風の影響で売上が本当にへこみました。そのときに単価を上げていく施策を改めて本気で考えていったわけです。
丸山
コロナもそうでしたし、たしかに2019年は房総半島を台風が襲いましたね。具体的にどのようにして客室単価を上げたのでしょうか。
鴇田
料理を変えたことですね。旅館業は変えられるものと変えられないものがはっきりしています。変えられるものは社員の意識、料理、発信の仕方などです。私はその料理に注目しました。前から10年くらいかけて3,000円ほどあげていましたが、このタイミングで料理の質を上げることで5,000円一気に上げました。高単価で行くと決めたんですね。
丸山
料理を変えるだけでそんなにも単価をあげられるのですか!?
鴇田
上げること自体は簡単ですが、問題はお客様に利用してもらえるか、満足してもらえるかですね。怖かったことは評価が追い付いてくるかでした。13,000円で満足していたお客様が、料理がよくなった18,000円のプランで満足していただけるかということですね。なぜなら立地と建物は変えられませんから、あと接客もすぐには変わらないですね。
丸山
しかし、単価をあげつつも評価が高くなったということは、それだけ料理を変えたことが効果的だったということですよね。
鴇田
料理の破壊力はすごかったですね(笑)。料理長にやりたいようにやってもらいました。そのために必要な原価がかかるので、その分単価をあげました。そうすることで主体的になり、料理に力と思いが乗りました。それがお客様の評価に直接つながりましたね。昨年の秋に料理の項目は満点の口コミ評価5.0になりました。これは自慢ですね。
丸山
評価5.0はすごいですね。稼働率も上がっていますが、そこもやはり料理の影響でしょうか。
鴇田
もう料理ですね。あと最近は接客もついてきました。あとは温泉の泉質がいいので。
温泉旅館が選ばれるプライオリティは温泉と接客、ここを押さえている旅館は強いです。
自分のやりたいことをやってほしい
丸山
これから新卒採用を積極的に行っていくと伺いましたが、その理由は何でしょうか。
鴇田
やっぱり私は人材育成を大事にしていまして。成長して独立する人が集まればいいなと思います。その前提であれば全然やめてもらってかまわないです。弊社を通じてやりたいことを見つけて挑戦するということは非常にその人の人生にプラスになると考えています。
丸山
ここでも先ほどおっしゃられていた「挑戦・成長」が肝になるのですね。
鴇田
はい。その中でも、若手をとることは可能性のチャンスをあげられることだと考えています。大手に進むこともいいと思いますよ。福利厚生、給与、安定とか重要ですよね。じゃあ中小企業である弊社の何がメリットかというと、やっぱり一人ひとりのアイデンティティを大切にしていて、何をやりたいのかを明確にし、近い距離で私と働けるということです。
丸山
たしかに中小企業のメリットはそのような経験を積めることが大きいですよね。
鴇田
若手にもっとチャンスを与えてあげたいなと思います。若手はやっぱりこちらのメッセージを素直に受け取ってくれて、学んでくれます。弊社は副業もOKです。なにをやってもいいので、自己実現のためにぜひ挑戦してほしいですね。そのためのテクニックなどは私の下で教えてあげるので。他の企業で文句言いながら働くなら、弊社にきて学びながら働いてくれた方がいいと思います。
丸山
すごい今、社長ならではのマインドをいただけたなという感覚です(笑)
鴇田
そうですか?そうやって受け取ってくれるから、若い人と話すのが大好きなんですよ(笑)。結局例えば所得の話で、今給与が20万円で、30万円にしたいとなったら方法は二つです。30万円もらえるところに転職するか、別で10万稼ぐ道を作るか、です。方法なんていくらでもあります。所得が低いと文句を言うのではなく、何かできることを探すべきです。
丸山
日本人は保守的な傾向が強いですから、挑戦せずに文句を言ってしまっている人が多いですよね。
鴇田
その考えも分かるんですよ。みんなリスクが怖いわけです。だったら、さっき言ったようにリスクを会社が持つから、挑戦してみれば?と思います。働き方を担保しつつ何か始めるなら副業ですし、そのために時間が足りないようだったら雇用契約も見直します。結局のところ、会社は仕組みでしかありません。
丸山
社員のキャリア形成のために本当に真摯に向き合っているのだということが伺えます。
鴇田
たしかにみんなそれで休んだら会社が回らないことは事実です。でもそれは会社の問題であって本人が背負う必要はありません。その人の人生だから、その人がやりたいことをどんどんやっていってほしいです。たとえ迷惑をかけようとも。でも、どうせなら手を組んでやろうよ、ということです。
求めることはチャレンジ精神
丸山
最後に新卒採用する方に向けて、どのような人と働きたいですか。
鴇田
やっぱり挑戦したい人です。あと最低限自立している人ですね。自分の頭で物事を考えられる人。また、考えられなかったとしても、可能性を感じる人ですね。そういう人と私は働きたいですし、そういう人が弊社になじむのではと思います。逆に向上心のない人間は厳しいですね。そういうことを面白がれる人間がいいですね。
丸山
本日は貴重なお時間をいただきましてありがとうございました。首尾一貫して「挑戦」ということを大事にされていて、それがこの記事を読む就活生の心に響いてくれるのではないかと思います。本日は誠にありがとうございました。
鴇田
こちらこそありがとうございました。
おすすめ記事
-
関西大学2年生
柳生朱璃
東大阪市長
野田 義和
思いをカタチに変える行動力を
- ローカル企業
- 官公庁
-
関西大学4年生
仁里美沙希
株式会社オアシス・イラボレーション
川渕 誉雄
次世代企業家育成へのこだわり
- サービス
-
関西大学2年生
神丸奈々
志戸平温泉株式会社
久保田 剛平
笑顔と感謝のために変わり続けた200年
- サービス
- ローカル企業
- 宿泊
-
立命館大学4年生
日裏藍
社会福祉法人さつき福祉会
鴨井 健二
分かり合える瞬間が醍醐味
- 介護福祉
-
関西大学2年生
松原 杏樹
生活協同組合とくしま生協
大久保 秀幸
人を想い、つながる組合
- サービス
- ローカル企業
- 小売
-
長崎大学4年生
原田歩果
株式会社大光食品
山中 数浩
美味しい商品で食卓に安心を
- メーカー
- 小売
- 運送