長崎大学4年生
原田歩果
社会福祉法人長崎厚生福祉団
千々岩 源大
学生と経営者がお互いに意見交換しながら、相互理解を深めるHR sessionの対談コンテンツ。
今回は、社会福祉法人長崎厚生福祉団 業務執行理事 千々岩 源大様に、お話を伺いました。
長崎大学経済学部。2024年4月より株式会社クイックに就業予定。 インドア派で、趣味は読書と音楽鑑賞。コンサートに行く時だけ意気揚々と外に出かけます。来年までに家事をできるようになるのが目標です
福岡、宮崎でコンビニの店長・店舗指導員を5年経験。 その後、長崎厚生福祉団へ入団。 2002年度より法人の新卒採用に関わり、2007年度から新入職員研修を開始。これまで面接した職員は1,000名以上。
目次
共通点探しが自分事化につながる
原田
はじめに千々岩様のご経歴についてご説明いただいてもよろしいでしょうか。
千々岩
私は大学では商学部の流通に関するゼミに所属していました。卒業後、まずは大手コンビニエンスストアに入社し、店長や店舗指導員をしていました。
原田
御法人に入られるきっかけはなんだったのですか。
千々岩
2000年に介護保険制度が始まり、法人を運営していた父が事業を約2倍に拡大したことで、急遽帰ることになりました。そこから職員たちにいろいろ教えてもらい、今に至ります。
原田
想定しない出来事だったかと思いますが、どのように自分事にされたのですか。
千々岩
小売りの仕事は、自分の工夫でモノが売れ、お客さんの喜びやオーナーの利益になることが喜びでした。介護の仕事は方向性が異なるので、ギャップが大きかったです。
ですが、現場で高齢者の方のために一生懸命頑張っている職員たちを見て、そんな職員の後方支援をする仕事であれば私にできることがあるのではと思い、勉強を積み重ねました。
原田
店舗指導の後方支援的な部分と、介護の後方支援的な部分に共通点を見出して自分事にしていかれたのですね。
今の対馬は未来の日本の姿
原田
2000年頃に事業を2倍に拡大されましたが、これからも福祉の需要は増加し、事業を拡大することもあるかと思います。どのように対策をとられているのですか。
千々岩
実は介護保険の事業は、これからの地方で爆発的に利用者が増えることはないんです。
地方都市では、高齢者の数は横ばいになっています。ただし首都圏ではまだまだ右肩上がりですので、地域によって対策も変わってくると思います。
原田
地方では人口減少が進んでいるため、高齢者の数自体も減っているのですね。
では、今の長崎ではどんなことが必要になってくるのでしょうか。
千々岩
長崎には離島や郡部地域があり、人口が少ないので、介護、看護人材の確保が必要だと思います。なぜなら、保険があっても提供する人材がいなければ、サービスを受けられないからです。そうなると介護が必要でも住み続けることが難しくなる方が出てくる。人口減少や高齢化が進む地域から順に、人材不足が大きな問題になってきています。
原田
特にそういう地域では若者がどんどん流出してしまっている分、残って仕事をしようとする人がいない。ましてや介護となるとまた難しくて、問題になっているんですね。
千々岩
当法人は対馬にも施設を持っています。そこでは、あと20年ほどで高齢化率が50%に近づくんです。そうなったときにどう福祉を支えていくかは、長崎の課題でもあり、将来の日本の課題でもあると考えています。
原田
将来日本がぶつかるであろう課題にいち早くぶつかってしまっているのが対馬などの島の地域なのですね。
千々岩
介護人材は2040年になると69万人不足すると言われています。長崎では2025年度で2100人ほど不足することが予測されています。今の時点でも足りないのに拍車がかかっていくんです。そんな介護人材をどうやって確保するかが課題ですね。
発信力のある法人へ
原田
人材確保が難しい業界だと思いますが、どう採用に取り組まれているのですか。
千々岩
その通り難しいんです。新卒採用では、ウェブで1dayお仕事体験をしています。オンラインでご利用者とコミュニケーションを取っていただいたり、ご利用者一人一人に合わせたケアプランの作成を疑似体験していただいたりしています。
原田
オンライン上でも介護の仕事を体験できるのは意外です。
聞いているだけでなく実際に自分で経験してみることでより現場のイメージができるので素敵な取り組みだと思いました。
千々岩
あとはやっぱり広く認知をしてもらうことが大事だと思うので、大学生だけでなく高校生や小中学生に対してもSNSで行事内容や働きがいを伝えています。TikTokは一昨年の10月に始めて、週に5回更新しています。一番バズっているのは760万回再生されています。
原田
すごいですね!
千々岩
介護業界は発信力が弱いです。自ら発信力を身に着けないと知られないまま埋もれてしまうんですよ。高校生の中には、「TikTok見ました!」と言って応募してくださる方もいます。
原田
実際に効果が出てきているんですね。
私も祖父が老人ホームにお世話になっていなかったら興味も持たなかったんだろうなということがたくさんあります。やはりどれだけ知ってもらえるかが大事なんだなと思いました。
みんなで一人前を目指す
原田
御法人は多いときで半数ほど、未経験の方を採用されているとのことですが、どれくらいの期間をかけて資格を取り、一人前に働けるようになるのですか。
千々岩
丸3年です。介護福祉国家資格を取るために、半年程度の介護福祉実務者研修を修了しないといけないんです。20万円くらいかかる費用も、私どもが負担しています。
原田
費用を負担してくださるのはとてもうれしいです。
千々岩
それと合わせて実務経験が3年必要です。3年目の冬に受験して、合格したら4月からは介護福祉士として働きます。ペーパーテストのために10月くらいから私どもの施設長たちが講師になって自主勉強会を開いてくれるため、みんなで合格しようとしています。
原田
手厚くサポートしてくれる環境が整っているんですね。
一人で抱え込むと心が折れてしまうと思うので、みんなと一緒に悩んで教えあえる環境があればモチベーションも高く保てるんだろうなと思いました。
千々岩
今長崎地区の介護職員のうち国家資格を持っている人は8割以上なんですよ。
原田
長く働かれている方は全員取得していて、中途や1-3年目の方だけが持っていない状況なんですね。
職員からの通知表
原田
御法人は離職率が低いところが特徴です。
新入職員に関しては全国平均32%のところを14%と半分以下ですが、なぜこんなに低く抑えられるのですか。
千々岩
そうですね、離職率はここ5年間は8-12%で推移しています。目標は10%以下です。離職率を下げるのは本当に難しくて、いろんな方面からのアプローチが必要です。採用、定着、育成をワンセットにして取り組んできた結果だと思います。
原田
この3つによって働きやすさが変わってくるのですか。
千々岩
働きがいと働きやすさの2つのバランスを取っていく必要があるんです。
そこで当法人では、670名の職員に対し、組織力診断を行っています。今年で6回目の開催です。無記名でアンケートに答えてもらい、業界平均と比較した数値が出るようになっています。法人全体、事業所別、職種別に数値を出しています。
原田
そんなに細かく出されているのは驚きです。
千々岩
事業所ごとに法人の平均と比べてどうかがわかりますよね。それに対して経営会議で役員と幹部職員で方策を考えます。あとは人づくりプロジェクトというものがあってその中に働き方改革チームがあります。各事業所から1名ずつ中堅職員が参画しているチームです。そのメンバーにも数字を開示して、どう感じるかを聞くんです。そうしたら「これが原因かもしれないです」と意見が出てきます。
原田
原因が予想できると対策も立てやすくなりますね。
千々岩
そこから解決方法も考えてもらい、管理者が考えたこととすり合わせてより精度の高い目標にしていき、1年後に結果が出る。これを6年くらい繰り返していますね。
原田
通知表をもらう感覚に似ている気がします。今一番評価されている部分はどこですか。
千々岩
育成です。教育プログラムの整備は業界平均より18ポイントくらい高いです。あとは仕組化、平準化、ここも11ポイントくらい違います。あとは適正な休暇の取得が8ポイントくらい高いし適性な労働時間も7ポイントくらい高いです。
原田
メリハリをつけて働けるところに魅力を感じる方が多いのですね。
長く働きたくなる仕組み
原田
長く働いてもらうための取り組みはされているのでしょうか。
千々岩
優秀な人には成長の場、一般の職員に対しては福利厚生が必要です。福利厚生に関しては毎年アンケートを取って、できることを積み重ねてきました。ひとつは職員食堂です。
原田
HPでも拝見しました。一汁三菜定食を300円で提供していらっしゃいますよね。
千々岩
始めたのには背景があります。当法人は稲佐山の中腹にあることもあり、飲食店がなく、みんなカップラーメンやおにぎりを買ってきていました。
自分の心身が健康でないといいケアができない仕事なので、昼食はいいものを食べてリフレッシュしてもらうといいんじゃないかなと思ったのがきっかけです。
原田
利用者の方の健康を支える仕事でもあるのに、自分たちの健康のことは後回しになってしまうという問題があったのですね。
福利厚生で言うと、保育施設もあるのが魅力だと思っていました。
千々岩
日曜祝日とかGWとか年末年始も普通の保育園がお休みのタイミングにも開いているんですよ。台風や積雪などの悪天候時や、感染症拡大により保育園がお休みになった場合も相談に応じて開園しています。女性職員が7割以上なので子育て中でも働きやすい職場づくりをしています。
原田
日曜祝日や連休中に開いているのは、働くお母さんにとって大きな味方ですね。
千々岩
もし連休中に子育て中の方が休んでしまうとほかの方にしわ寄せが行きますよね。その人たちは負担感を感じるし、休んでいるほうも申し訳ないと思ってしまう。それを払拭できるわけです。職員間の関係性も向上します。職員の子どもたちも、お父さんお母さんが働く姿を見ることで、福祉の仕事に就く原点になるといいなと考えています。
原田
子育て中の方とそうでない方との業務負担の差が気になっていたので、お休みの日でも対応できる保育園があるとバランスが取れるんだなと思いました。
千々岩
うちでは100名以上の方が育休を取っています。2人目3人目を育てながら働かれている先輩が各事業所にいて、ロールモデルがたくさんいます。当たり前に育休を取って復帰して、時短勤務して保育園を活用しながら2人目ができるかもしれない、これが繰り返されて風土が作られているんです。
全職員に歩み寄る
原田
御法人の現時点での課題点はありますか。
千々岩
上司への信用信頼と部署間の関係性です。この2つには5.6年取り組んでいて、一部の施設では上がってきています。
原田
どんな取り組みをするのがいいのでしょうか。
千々岩
職場の風通しを良くすることです。例えば会議のときに、直属の上司がいると、不満や悩んでいることを言いにくいですよね。当法人では機関会議という各事業所の全職員が参加する会議で、意見だしシートというものを書いてもらうことで改善しようとしています。
原田
どんなことを書くのですか。
千々岩
記名式で、その月のいいところと悪いところ3つずつ、あとは自分が思っていることを自由記述し、事前に提出してもらっています。意見には、管理者がフィードバックします。それをほかの職員も知るわけです。取り上げられたら自分の意見が通った感覚がありますよね。
原田
たしかに、直接言うよりも抵抗感がないかもしれません。
千々岩
もうひとつ、施設長と職員の1on1面談もしています。取り組み始めて4年目くらいです。頻度は4半期に1回、職員が多い所であれば半年に1回です。なぜこんな取り組みをするかというと、例えば原田さんが退職したいと思ったとしても、なかなか直属の上司に相談しないですよね。直属の上司に言うタイミングは退職届を出すときなんですよ。
原田
その通りだと思います。
千々岩
その時に管理職はびっくりしますよね。それを防ぐためにも普段から1:1のコミュニケーションを取って、職員の悩みを聞き、管理者自身のことを知ってもらいます。目標や協力してほしいことを伝えられるので、上司への信用信頼のポイントが徐々に上がってきます。
原田
私も一緒に働く仲間との関係性は、長く楽しく働くうえで重要だなと感じています。
特に上下の関係を改善しようと上の方が積極的に行動を変えてくださっているのを見ていると、信頼できる上司の方たちだなと思いますし、素敵な取り組みだと思いました。
千々岩
福祉の仕事をする方は好きでやっている方が多いので、働く環境さえ整えられていれば、やりがいを持って働いてくれる方が多いんです。
究極の接客業
原田
現時点では福祉業界に興味がない学生もたくさんいると思うのですが、学生に伝えたい魅力はありますか。
千々岩
私たちは、介護は究極の接客業だよということをよく学生さんたちに伝えています。
やっぱり介護の仕事って身体介護の部分が際立つと思います。
原田
そのイメージが強いです。
千々岩
それはそうなんですけど、よりきめ細やかな支援をしていく、生活全般のお手伝いをしていくことが介護の仕事なんですよね。
最初は元気がなかった利用者の方がだんだん良くなって一緒に喜び合ったり、気落ちしていたら励まして感謝されたりするのが醍醐味なんです。なので職員が利用者の方を支えているんですけど、同じように介護職自身が支えてもらっているんです。
原田
利用者の方から力をもらえる仕事なのですね。自分の行動が利用者の回復に繋がるというのは大きなやりがいになりそうです。
千々岩
利用者のみなさまは人生の大先輩なのでよく見られています。介護職に対して、「今日元気ないけどなんかあったと?」とか「昨日休みやったけど何しよったと?」とか覚えていて声掛けしてくださるんです。そういう時に介護職員自身も支えてもらっているなと感じるんですよね。
原田
すごくあたたかい環境ですね。
介護はクリエイティブだ
原田
学生がまだ知らないような介護の魅力はありますか。
千々岩
実は介護の仕事ってクリエイティビティを発揮できる仕事なんです。介護の仕事をする人は、ご利用者との信頼関係を構築するために個性に合ったコミュニケーションを臨機応変にとっていくスキルがあるわけですよね。それだけでも創造性があると思いませんか?
原田
生活に伴走する存在でもあるので、心を開いてもらうコミュニケーションをとる必要がありますし、創造性があることだと思います。
千々岩
あとは各季節ごとのイベントの企画立案も型どおりではなくてご利用者の状況を見て、これだったらできるかな、喜ばれるかな、と考えるのもクリエイティブじゃないですか。
介護が持っているクリエイティブさを職員一人一人が発揮するための対策が法人にできていれば、辞めることもないし、やりがいをもって働いていただけるのではないかと思います。
原田
利用者の中には、今まで出来ていたことが思うようにできない悔しさを抱えている方もいらっしゃる中で、そういう人をどうにか笑顔にしてあげようとコミュニケーションを取ることができる方って能力のある方だと思います。個人に応じたできることを考えていくことも創造性がある仕事だと思ったので、やりがいを持って働ける場所なんだなと思いました。
千々岩
仰る通りです。
職員が得意なこと、例えば書道、絵、楽器、ダンス、全て福祉の仕事で活かせるんです。普通の会社じゃできないですよね。施設は生活の場なので、今まで自分が身に着けてきたもの、スキルや好きなことを発揮してご利用者の方の生活に潤いを与えられるのが魅力です。
原田
職員のみなさまのやりたいことをサポートしてあげられる環境が整っているからこそ御法人ではたくさんの方がやりがいをもって働けているのだなと思いました。
本日はありがとうございました。
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