長崎大学4年生
原田 歩果
株式会社日東物流
菅原拓也
学生と経営者がお互いに意見交換しながら、相互理解を深めるHR sessionの対談コンテンツ。
株式会社日東物流代表取締役 菅原拓也様に、お話を伺いました。
長崎大学経済学部。2024年4月より株式会社クイックに就業予定。 インドア派で、趣味は読書と音楽鑑賞。コンサートに行く時だけ意気揚々と外に出かけます。来年までに家事をできるようになるのが目標です。
大学卒業後、大手運送会社などを経て2008年、家業である日東物流に入社。2017年9月、代表取締役に就任。コンプライアンスの徹底や健康経営の実践を通して、企業体質の健全化のみならず財務体質を強化させる経営手法が評価され、千葉県の物流企業として初めて、経済産業省の認定する「健康経営優良法人」に選出されるほか、リクルート主催「GOOD ACTIONアワード」を受賞するなど、物流業界にて注目を集めている。
目次
従業員を守れるのは私だけ
原田
本日はよろしくお願いいたします。
はじめにご経歴についてうかがいます。菅原様はファーストキャリアで大手物流企業をご経験なさった後に日東物流様にご入社なさっていますが、どのような思いで家業を継がれたのでしょうか。
菅原
もともと経営者になりたいと思っていたんです。父が社長をやっているということもあったので、跡を継ぎたかった。でも、最初は断られたんですよ。
原田
なぜでしょうか。
菅原
社長ってきらびやかで豊かなイメージがあると思うんですが、実態は甘くないんです。私たちの会社は24時間365日ずっとトラックが動いていますので、社長の場合、夜中でもトラブルがあれば駆け付けなきゃいけないですからね。
原田
お父様がご苦労なさったご経験から、最初は断られたんですね。
代表取締役になられたきっかけはなんだったのでしょうか。
菅原
もともと10年を目処にバトンタッチをしようと話をしていたんです。それに合わせて計画も立てていましたが、順調ではありませんでした。事業運営の方針や考え方の相違など社内の軋轢もあって、会社を辞めようかと悩んだ時もありましたが、2017年に代表取締役に就任しました。
原田
辞めたくなったとき、何が踏ん張れる要因になったのでしょうか。
菅原
今では改善されている部分も多いですが、物流業界では法令遵守をしていると商売が成り立たないと考えられている部分がありました。特に長時間労働には肯定的な風潮があったんです。かつての当社もそうでした。そんな中で重大な事故を起こしてしまい、営業停止処分を受けたんです。
原田
たしかに、ドライバーのみなさんは長時間働いていらっしゃるイメージがあります。
菅原
そうなんですよね。この事故の反省もあり、社員と会社を守るために、社員の健康と社会のルールをしっかり守っていこうと決めました。
旧体制からは「生ぬるい事を言っていても経営は成り立たない」と反発され、苦しかったです。でも、自分の使命は会社をより良くすること。そうやって腹を括ったことが、踏ん張る気力になったのだと思います。
根拠をもとにおとぎ話を現実へ
原田
コンプライアンスの遵守は、当初は遠くの理想で夢みたいなことだったかと思います。長時間労働も解決しながら給与を維持するためにどういう工夫を重ねてこられたのですか。
菅原
どんな事業でも、「収入を増やす」と「支出を減らす」の2つを意識しないと成り立ちません。ですので、これらを実現するために、待遇や輸送ルートの見直し、荷主との料金交渉など、あらゆることに取組みました。
原田
実際私もいろいろな記事を拝見して、運賃の交渉をなさったことを知りました。少し気になったのが、すぐに頷かれる企業は少ないんじゃないかなということです。何か御社ならではの提供価値があったからこそ、相手企業も納得されたのでしょうか。
菅原
特別な配送ができるかというと、そういうことはないんです。もちろん提供価値も重要です。しかし、交渉に必要なのは、客観的妥当性をしっかりと示すこと。燃料や人件費、車輛維持費の高騰など、時代によって当社のサービスに掛かるコストは変化するのに、運賃は据え置きということはありえないですよね。そのため、料金を上げる必要性を丁寧に説明し、ご理解いただくように努力しています。
原田
根拠に基づいて説明なさっているから、受け入れていただけているんですね。
ドライバーさんの挨拶や時間厳守などは、当たり前のようで徹底するのは難しいのではないかと思います。どうご指導なさっているんですか。
菅原
実際には確認出来ないので、全てのドライバーがちゃんとしているかは分からないですよ笑
私たちの仕事は、商品が無事に、きれいに、時間通りに届けられるのが当たり前なんです。これは、ドライバーさんを指導して対応できるものではないので、会社全体でしっかりと取り組んでいます。それができると、大事な仕事であればあるほど、少し高くても日東さんにお願いしますと言っていただけます。
原田
HPに「物流は、止まらない。」と書かれていましたが、物流がもし止まってしまうと私たちの普段の生活が守られないなと気づかされました。そこを下支えなさっている自負と覚悟が詰まった言葉だと受け取っていましたので、今のお話を伺って改めてすごいなと思いました。
日本の血液
原田
実際に働いているみなさまは、どんな場面でやりがいを感じていらっしゃいますか。
菅原
直接的に話をされることはないんですが、私の中で印象的だったのは、東日本大震災のときです。大きな震災で道路が寸断されてしまうと物流が止まってしまいます。そうなると、どこに行ってもモノが手に入らなくてみんな困りますよね。一日物流が止まっただけでもこうなってしまう。それだけ日本の物流は細やかに動いているものなんです。
原田
私たちにとって、お店に行けば商品が並んでいるのは当たり前のことなので、有事にならないとありがたみに気づけないのかもしれません。
菅原
そうかもしれないですね。そして、災害などでみなさんが困っていることを目の当たりにすると、みんな寝る間も惜しんで仕事に取り組むんです。もちろん、長時間労働になってしまうので、コンプライアンス上は絶対にアウトなんですよ。それでも何が彼らを突き動かしているかというと、やっぱりプライドだと思ったんです。
原田
世の中に欠かせない仕事である、というプライドですね。
菅原
はい。自分たちが運ばなければ困る人たちがたくさんいる。だからやり続けたんですよ。長時間労働を許容してしまった会社も会社です。ただ、彼らが本当に一生懸命やってくれたおかげで食料品がみなさんのもとに届きました。かっこよかったし、誇らしかったです。そんな彼らが働く環境を整えたくて、コンプライアンスや健康経営に取り組んでいます。
原田
なんというんでしょう、日本の血液と言いますか。物流が止まると日本全体が困ってしまうんだなと感じました。プライドをもってお仕事をなさっている姿はかっこいいですね。
届かないと作れない
原田
今物流業界では2024年問題が最も大きな課題だと思います。
これは人手不足のせいで解決が難しいと言われているのでしょうか。
菅原
2024年問題ってたくさん議論されていて、「宅配の再配達を無くせば解決できるのでは?」なんて言われていますよね。これってみなさんのお宅に届けるってお話じゃないですか。でも、原田さんが活用されるネットショッピングのような物流は10%もないくらいなんです。
原田
そんなに少ないんですね。
菅原
95%くらいがBtoBと言われる物流。みなさんには見えない部分で企業間のやり取りをして、工場で作ってお店に持っていく。1つのものが届くまでの間で、裏では何倍もの物流が回っているんです。
原田
では、再配達を無くすだけでは問題は解決しないですね。
菅原
その通りです。なので、物流業界の根本的問題は、人手不足ではなくドライバーの働く環境だと私は思っています。環境が良くなって待遇が上がらなければ、働き手が減り、物流が滞ると思います。
原田
環境がよくないと人が減る、人が減るとさらに環境が悪くなる、という負の循環ができてしまいますよね。2024年問題の一番の問題は、頼んだ商品が届かないのではなく、その商品自体が作られなくなることなのだなと思いました。そう考えると、もっとドライバーのみなさまの立場が向上すればいいなと思います。
菅原
おっしゃるとおりです。一般消費者からすれば宅配が身近なのでフォーカスしがちですが、配達の問題ではなく、そもそも商品を作れなくなることが一番の問題です。だからこそ、みなさんには物流への意識を高め、問題を自分事化して欲しいです。
原田
ドライバーのみなさまだけでなく、私たちももっと考えなければいけない課題ですね。
菅原
宅配の話をすると、海外ではモノを届けるのは有料サービスなので、お金を払いたくなければ自分で取りに行くのが当たり前なんです。だから物流に対してある程度お金をかけられるし、ドライバーにもお給料を払っていける。ただ日本はサービスが本当に良すぎる反面、無料なのが当たり前なので非常に苦しい状況なんですよね。
原田
たしかに、日本のドライバーさんは細やかに対応してくださるイメージがあります。
2階まで運んでくれるとか、家の中まで入れてくれるとか、ですよね。
菅原
はい。当社事業の話をすると、トラックドライバーは荷物を積み込むだけでも2時間以上かけることもよくある話ですし、細かい検品をして冷蔵庫の中で管理します。これがコスト効率や生産性を悪くしているのですが、この付帯作業を"サービス"するのが当たり前になってしまっているんです。慣習を変えるのは難しいことですが、行動しないと10年先も変われないので、私が頑張って変えていきたいと思っています。
給与形態からwin-winを目指す
原田
先日トラックの運転手さんとお話しさせていただく機会がありました。その方は事故の危険もあるし、休む時間も荷物のことを気にかけているから大変だとおっしゃっていました。そういう方々の待遇改善、評価はどういうことをなさっていますか。
菅原
一生懸命な人が損をしないようにしています。
勤務時間が長くなれば比例してお給料が上がるのが一般的ですよね。でもこの仕事はそれが難しい。9時間で終わる仕事があったとして、仕事ができる人は8時間、そうじゃない人は11時間かかるとします。そうすると、仕事ができる人のお給料が下がってしまうんです。
原田
だったら、だらだらしたほうがお得だなって思っちゃいそうです。
菅原
そうですよね。でもそうすると生産性が落ちるんです。なので、我々は時間が短くなればなるほど基礎単価が上がる評価システムにしています。11時間かかっても8時間で終わらせても給与単価は変わらない。1時間あたりに直すと引きあがっていくイメージです。
原田
頑張った人が損をしない仕組みになっているところが魅力的だなと思いました。そこがコンプライアンスの遵守にも繋がっていくんですね。
菅原
仕事を早く終わらせれば、会社は労働時間をクリアできますし、本人も休憩できる時間やプライベートの時間が増えてお給料も下がらないので、お互いにメリットがありますよね。
健康に、長く働く
原田
コンプライアンスを遵守されていく中で従業員のみなさまからどんなお声が届いていますか。
菅原
古参のドライバーさんに、昔の働く時間とは圧倒的に違うと言われました。
労働時間が減ってお給料は上がっているから、昔に比べて楽すぎて、これでいいのかなって言う方もいるくらい変わっています。離職率もぐっと下がりました。
原田
どのくらい下がったのですか。
菅原
物流業界全体の平均離職率の半分くらいにはなりましたね。一番多かった時は入社3日後には辞めているとか、そんなのはざらでした。コンプライアンス経営が直接関係するかわからないですが、働きやすくなったんじゃないかなと思います。
原田
長時間運転なさることが多い分、家族との時間を取りにくいのではというイメージもあったのですが、今はご家族の時間を大切にできる方が増えてきているということですね。
菅原
昔は業界的にも企業的にも未成熟な部分があったため、家に帰ったらご飯を食べて、4時間寝てまた仕事に戻るような長時間労働が常態化していました。しかし、今は必ず10時間程度で帰社できるので、ドライバーさんは毎日家族と会うことができます。
原田
4時間寝て次の仕事にと考えると健康面も心配だなと思ってしまいますが、そこもしっかり整備なさっているんですよね。
菅原
今は法律的に退勤してから次の出社まで何時間空けるかが決まっていますし、1か月で働ける時間も決まっています。業界的に遵守のハードルは高いのですが、全社を挙げて取り組んでいるので、かなり働きやすくなったと思います。
原田
健康診断も実施なさっていたり、禁煙やアルコールチェックもなさっていると拝見しましたが、従業員のみなさまも元気に働かれる方が増えていますか。
菅原
健康寿命を延ばすことが重要なんです。たとえば、50代で病気が原因で働けなくなると、平均寿命を全うするまでの30年間収入がなくなってしまいます。そうならなくていいように、健康じゃないといけないですよね。
原田
長い間無収入が続くと、不安が大きくなって心の健康にもよくない気がします。健康って大事ですね。
菅原
病気を早期発見できれば途中で働けなくなるリスクを格段に落とせます。健康寿命が延びてリタイアを後ろにずらすことで、貴重な戦力となっていただく。ドライバーさんを守って、元気よくできるだけ長い時間勤められるように取り組んでいます。
原田
労働力不足は大きな問題ですし、働ける年数が伸びるのは双方にとってもいいことですね。
ドライバーのイメージを覆す
原田
長く働いてもらうだけじゃなく、新戦力に入社してもらうことも重要ですよね。しかし、ドライバーは大変なのに評価が伴っておらず、踏み出しにくい仕事であるとも感じています。立場を向上させるために菅原様が必要だなと思うことは何でしょうか。
菅原
業界イメージを向上させるための発信力の強化と、どんな人でも安全に働きやすくするためのデジタル化の推進など環境整備が必要だと考えています。
原田
物流業界でもデジタル化が進んでいるんですね。女性が働ける環境も整っていますか。
菅原
女性で体が小さい方でもできる仕事がたくさんあります。今ではオートマなのでトラックの運転も難しくありません。昔ほど大変な仕事でもないですし、力がないとできないこともないので、物流も職業の選択肢の一つとして考えてもいいかもなって思ってもらえたら嬉しいです。
原田
そうなんですね。トラックドライバーはどんな方に向いているのでしょうか。
菅原
運転中はひとりになることも多いので、コミュニケーションが苦手な方でも働きやすいですし、いろんな時間帯から仕事を選べるので、生活スタイルに合わせた働き方も出来ます。向き不向きというよりも、その人に合ったワークスタイルを選べるのが魅力ですし、そういうメリットを発信していくことで、ドライバーに興味を持つ人を増やしていきたいですね。
原田
マイナスなイメージが先行しているせいで、職選びの上での候補にもならない状況から、「実はそんなことないんだよ」と発信することでイメージを改善し、興味を持つ方を増やせるとお考えなんですね。
危機に駆け付けるヒーロー
原田
最後に菅原様の目指す理想の日東物流とは、という観点でお話を伺いたいです。
10年後、どのような会社を目指していらっしゃいますか。
菅原
一貫して思っているのは、従業員のみなさんに「日東物流に勤めていてよかったな」と思ってもらい、プライドを持てる職場環境をつくることです。それが事業拡大によって達成されるなら事業を拡大したいです。具体的には、定年を迎えたドライバーが、その後の生活を安心して過ごせるような再雇用の受け皿として、新しい事業に取り組みたいと思っています。
原田
従業員が「日東物流に勤めていてよかったな」と思ってくれるような、というお言葉がありましたが、実際何か要望が出ていたり、課題だと思っていることはありますか。
菅原
待遇です。福利厚生も大事で、脳ドックとか無呼吸の検査とかインフルエンザの予防接種を家族全員に無料で受けてもらうとか、そういったこともやってはいます。でも、それは副次的なものであって、絶対にしなくてはいけないのが、労働時間を短くして給料を上げることです。そのために利益を出さないといけないから、一生懸命方法を考えなきゃいけないですね。
原田
待遇を変えるために運賃の交渉をなさっていますし、そこを徹底するんですね。
新しく挑戦したいことはありますか。
菅原
業界的に、労働時間とか賃金の水準が低いんですよ。福利厚生でこれができるとかではなく、まずは全産業の平均くらいには引き上げることが先決だと思います。
原田
最後に物流業界に興味がある方々に向けて何かメッセージがあればお願いします。
菅原
物流は社会的になかなか評価されにくい仕事ですが、日本の血流と言われるように、日本経済を支える大切な仕事です。何かが起きたとき、誰かが困っているときに活躍し、多くの人びとに感謝される、まさにヒーローのような仕事です。
トラックだけでなく、ドローンやロボット活用などDX化により進化する数少ない発展産業のひとつですので、どんな仕事があるのか興味を持って調べてくれると嬉しいです。
原田
運ぶお仕事だけではなく管理する方がいたり、さまざまな活躍ができるんですね。今日のお話を通して、私たちの生活を陰から支えてくださっている方々だと改めて思いました。ありがとうございました。
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