成城大学3年生
土屋 海人
三恭金属株式会社
寺澤 敦浩
学生と経営者がお互いに意見交換をしながら、相互理解を深めるHRsessionの対談コンテンツ。
今回は、三恭金属株式会社の代表取締役 寺澤 敦浩様に、お話を伺いました。
成城大学社会イノベーション学部。2023年3月より株式会社クイックでインターンを開始。大学では、組織マネジメントや人材管理を学んでいる。趣味は料理。父の影響でイタリアン料理を得意とする
昭和43年6月生まれ。54歳。大学卒業後、トヨタ自動車に入社し生産管理とし て従事。平成23年12月に三恭金属株式会社へ入社。平成30年に代表取締役社長に 就任し、現在に至る。
目次
土屋
本日は貴重なお時間を頂きまして誠にありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。
寺澤
よろしくお願いいたします。
土屋
ご経歴からうかがえますか。
寺澤
はい。ただいま三恭金属株式会社の代表取締役をしております。大学卒業後は大手自動車メーカーに就職しました。20年弱勤務の勤務を経て、三恭金属株式会社に転職いたしまして今に至ります。
土屋
ありがとうございます。前職のような大手企業から転職をなさった理由は何でしょうか。
寺澤
前職では9年ほど愛知県の工場の生産管理を行っていました。その後本社の車両企画を行っている際、今の妻と出会います。義父が経営する会社が三恭金属だったんです。「手伝ってほしい」といわれていたことが一つのきっかけです。
土屋
なるほど。奥様のご実家だったのですね。
指示待ちからの脱却
土屋
転職は非常に大きな変化だったかと思います。ご苦労なさった点はどんなことでしたか。
寺澤
一番は社風の違いですね。前職では従業員が常に問題意識をもって働いているんです。部下たちが「もっとこうしましょう」って提案してくるんですよ。けれども、転職時の三恭金属はトップの指示で動く社風がありました。その中で業務推進スピードを上げていくことに苦労しましたね。
土屋
ありがとうございます。社風の違いという点でご苦労なされたのですね。別の御社の記事を拝読しました。意識を変えるために、従業員の皆様の主体性を育成に取り組まれたかと思います。寺澤様が意識した点はどのようなものでしたでしょうか。
寺澤
学生にとっては、仕事の中での主体性の発揮の仕方を理解するのは難しいと思います。一番大事なことは、世の中の出来事、あるいは社内の出来事。隣の部署の出来事を「自分事化」することとよく伝えます。 自分に置き換えるとどういう問題のか。自分がその立場になったらどのように対処するか?と考える意識を定着させる。あるいはみんなに気づいてもらうっていうことが一番大事なのかなと思います。
土屋
自分のこと以外の課題も、自分の課題として考えるというところが重要だということでしょうか。
寺澤
そうですね。若い時って、きっと配属部署や業務のことを一生懸命勉強すると思います。それは正しいですが、「この部署の仕事はほかの部署にどう影響するんだろう」とか、いろいろ視野に広がりが出てくると自ずと主体性って出てくるんですよね。理解ができると思うので。そういった点が 本当に大切だなと思いますね。
土屋
御社は開発から生産まで一貫した生産工程を取られていると思います。さまざまな業務工程の中でも、 主体性を意識するために自分の業務だけじゃなく、他の部署や他の製造工程の課題なども 従業員の皆様が意識していらっしゃるんですね。
寺澤
はい。開発から金型製作、製造施策、 それぞれ専門家はいます。スペシャリストたちは一生懸命頑張ってくれていますが、問題は開発から生産、お客様に出荷する一連の流れ全体をコーディネートすることが大事です。進捗管理ですね。全体の進捗の中で今ここにいることが正しいんだろうか、遅れてるんだろうか、あるいは今の設計の課題が後々製造の作りにくさにつながるんじゃないだろうかとかですね。主体性を持って周りを見るっていうことが最も大切だと考えています。
土屋
それぞれ違った現場の方々が情報を共有するためには時間を取らないと難しいと思います。どういった形で共有の時間を取られているんでしょうか。
寺澤
まずはその関所、関所で情報を共有する場をもうけました。要するに開発の状況をみんなに報告すると、金型だとか生産準備にこんな道具が必要だと思うけど皆さんどうですか、とか各フェーズで関所を設けてその課題をみんなで共有する。会議が増えて大変になる。という声もあるんですけど、この裏返しとしては情報共有不足による問題発生を回避できます。
土屋
会議の中で最も重要にされているポイントを教えてください。
寺澤
いろんな視点で考えないと課題抽出は難しいです。例えば 原価だけ見て、分析すると安かろう悪かろうで不良率の高い製品を作ってしまうことになります。多面的に全体を俯瞰してみなければ、明確な課題抽出はできないんじゃないかなと思います。
土屋
ありがとうございます。私も課題の解決や分析を現在大学の方で学んでおりますので、今のお話からもとても学ばせていただきました。
寺澤
いやいや、学生の皆さんの方がよっぽどプロだから教えてほしいくらいですよ。まぁ、全体のコーディネートでこんな切り口がありませんかとか、こんな側面からはどうなのってことを、特に私みたいな経営者は見ていかないといけないんだなと思います。
求められる技術は時代を問わない
土屋
御社は低価格で安全性の高い製品を提供なさっていますが、とらえ方によっては相反するものかと考えております。そういった中でこの二つを両立するための考え方や戦略をうかがえますか。
寺澤
鋭い質問ですね。確かに相反する事象で、非常に難しいです。やっぱり安く作るにはそれなりに省略しないといけないですね。その分いろんなリスクが出てくるということで、そこはバランスを持ってやる必要があります。とはいえまずは、お客様が求める製品の目的、必要な機能は何か?ということに着目をします。
土屋
なるほど。
寺澤
例えば弊社は、燃料タンクキャップを作っております。オートバイの燃料タンクキャップは2つの機能が大切です。1つは外観、お客様がそのデザイン性を感じてくれる製品であること。もう一つはガソリンが漏れない、あるいはガソリンの気圧をうまく逃がすという安全性能です。ガソリンが漏れたりして、万が一 火がついてしまう。なんてことになると、とんでもないことになるので、ここはコストと性能に全力でお金をかけなきゃいけないです。
土屋
安全性を高めるためにはお金がかかるんですね。
寺澤
一方、外観の性能はお客様の主観的な部分もあるので、ほんの少しの傷を気にするお客様と、コストが重要というお客様がおられます。その主観の部分のところに対してはどういう風にコストを抑えるかのバランスが難しいですね。製品の機能とか、お客様が求める要求レベルを満たす提案をしていくということが大事だと思います。
土屋
観点別に進めていくわけですね。御社は同時に歴史ある経営をされておられます。長い間品質を確保し続けるといった点で一番大事なことは何でしょうか 。
寺澤
おっしゃる通り、歴史だけはあるんですけど、突出した技術力が根付いているかで言うとまだまだですね。一つ言えることは昔の我が社の従業員の皆さん、先輩方は飽くなき技術の追求をしてこられました。ものづくりにこだわってきたという財産で、今なお、皆様にご愛顧いただいてると思います。今まではそれで良かったんですけど、今後はその職人的技術、知識をきちっと誰でもわかるように 標準化することは必要ですね。
土屋
ありがとうございます。諸先輩方の技術の蓄積といったところなんですね。
寺澤
アピールはしていないのですが、案外技術力はあるというのが、私が10年間で気づいたことです。大事にしていきたいですね。
土屋
案外というのはどういうことでしょうか。
寺澤
技術力、強みを数値化することが難しいんです。職人の頭の中にあるものですし。データが一切ないので気づかなかった。だからそのデータを残すというのが今の課題だと思います。
土屋
今後データ化するには具体的にどういった手法とアプローチをお考えでしょうか。
寺澤
我々の製品の鋳造。いわゆるダイキャストというのは亜鉛を溶かして、型で固めて製品にしています。それは湿度や温度その他いろんな条件で形が変わるんですね。条件設定するパラメーターがあるんですけど、それも1年間ずっと同じではないんです。これまでは職人の経験値がものをいう世界でした。そこで、1年間徹底して記録をしつづけてみました。ある時は温度何10°cだった湿度は何パーセントだった、その時にはこの条件で製造して成功した。失敗した。ある日は気温が朝マイナスで、真夏に比べてこんなに条件が違っていて不良率もこうだった。その全体のデータをまず取ってから議論する。ということに取り組んでいます。
土屋
なるほど。
寺澤
職人は「正解はない!」と心の中では思っていると思います。しかし実際に実行してみると、新たな気づきがあるはずです。技術力のある職人さんの頭の中を、いかにデータ化して世に残すかということがとても大切なことだと思っています。
土屋
職人さんとのすりあわせはどのようにおこなわれましたか。
寺澤
まずは仕事の進め方にはさまざまな方法がある。ということを理解いただくことに勤めています。外部の研修やOJTを中心に実施しました。先日は「金型にコーティングを施すと10万円かかるけど、すごく型が安定していいものができるのでコーティングをやりたいです」っていう提案がありました。「今の不良率は何パーセントなのか、もしコーティングをしたら何パーセントぐらい改善できそうか、仮に、10万円に対して不良率が今5%でそれが2.5%になれば、10万円かけたら1年でペイできそうですね。」とかね。コミュニケーションの質を変えていく取り組みもしています。
土屋
職人さんたちとの会話の質を変えることも教育なんですね。
寺澤
そうですね。非常に粘り強くやってますし、対立することもありますよ。「違いますよ社長」と指摘を受けることもあります。ただ数字の世界も取り入れながら物事を判断しないと、間違ってお金をかけて、効果がなかったっていう時に責任を取るのは我々なので。お互いに歩み寄ってそういうデータや理屈でトライしていくことでリスク回避にもつながります。
変化への対応
土屋
変化というお話につながると思うのですが、御社では3Dプリンターの導入をなさっているのを拝見いたしました。
寺澤
3Dプリンターは生産というより開発部隊。いわゆる設計部隊が提案型なので、自分たちが提案した形状の製品が本当に機能するかをみるための導入です。
土屋
なるほど。
寺澤
今までなら素材の削り出しにものすごい費用を投じ、試作品を作って、自分たちが設計した嵌合を調整してきました。今はプリンターである程度形状を試作しております。技術者部隊、設計部隊はすごく役に立っているようですね。
土屋
ありがとうございます。今後もさまざま新技術を用いた工業機器というものが今後も出てくるかと思います。そういった新しい工業機器の導入プランはお考えになっているんでしょうか。
寺澤
はい。そうですね。弊社は社名が「金属」とついておりますが電
土屋
そうなんですね。
寺澤
自分たちの技術力を環境変化に対応しながらどう活かしていくのか。そういった新しいチャレンジをしていく。何ができるのかを真剣に考える。実際にトライアンドエラーでやってみることが大切ですよね。
土屋
長く歴史が続く企業でトライアンドエラーを積極的に行うというのは意外でした。新卒採用で入社した皆様に対してはどのようにチャレンジ精神を育んでいらっしゃいますか。
寺澤
新卒採用は2018年ごろから実施しております。若い力を借りながら変化に対応していくことが我々のような企業には必要だと考えました。試行錯誤しながら行動指針を示して理解をしていただくところからすすめています。
変化に適応するコツ
土屋
我々学生も変化が著しい時代において、求められることが増えていくと思います。何が重要だとお考えでしょうか。
寺澤
世の中に必要とされることができているか。これを考え続けることだと思いますよ。
寺澤
そうですね。どの役職の人も新人の人もいろんなことを自分の判断で決めます。その根拠を説明できることが重要です。
今の学生にも情熱はある
土屋
根拠をもつということは人間としての芯につながってくるかと思います。寺澤様にとっての社長としての芯をうかがえますか。
寺澤
変革を恐れない。同時にその変革にどんなリスクがあるのかという検証を怠らないことですね。
土屋
何事も検証して取り組むのですね。
寺澤
そうですね。また、「好かれず嫌われずを貫く」もモットーにしています。社長なのでみんなにいいように思われたいとかはあるんですけど、それだけではだめですし、「絶対にもう大嫌いだ」、というのも問題です。就任してまもなく「三恭金属の方向性が見えない」と従業員に言われました。方針を示す。示す時はブレないこと。根拠をロジックに基づいて熱く語ること。意識しています。
土屋
今回の対談で刺激となるお話をたくさん頂き、大変うれしく思います。ありがとうございました。
寺澤
こちらこそ、ありがとうございました。
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