長崎大学3年生
南 晃陽
社会福祉法人ゆうかり
水流 源彦
学生と経営者がお互いに意見交換しながら、相互理解を深めるHR sessionの対談コンテンツ。
社会福祉法人ゆうかり 理事長 水流 源彦様に、お話を伺いました。
長崎大学経済学部。大学では地方創生についてフィールドワークを通して学んでいる。就職活動では人材業界を中心に活動している。犬とDisneyが好き。将来は犬とDisneyに囲まれた生活を送りたい。
社会福祉法人ゆうかり 理事長(ゆうかり保育園 園長 兼務)、NPO法人 全国地域生活支援ネットワーク 理事長 鹿児島県障害者自立支援協議会 会長、学校法人南学園 鹿児島医療福祉専門学校 非常勤講師、社会福祉法人 グロー 評議員、NPO法人 バリアフリー映画研究会 理事、鹿児島市知的障害者施設連絡協議会 会長、鹿児島県知的障害者福祉協会 理事、社会福祉法人 鹿児島市社会福祉協議会 理事、社会福祉法人 山鳩福祉会 評議員、鹿児島市障害者基幹相談支援センター運営協議会 会長、鹿児島市障害者差別解消支援協議会 委員、社会福祉法人 昴 評議員、社会福祉法人 清心会 評議員 内閣府 障害者政策委員会委員、社会福祉法人鹿児島県手をつなぐ育成会 評議員
目次
理想の福祉の原点
南
水流様が福祉に携わった経緯をお伺いしたいです。
水流
学生時代に福祉を学んでいて、卒業後に滋賀県にある社会福祉法人に就職しました。そして、そこで近江学園を創設した糸賀一雄さんが世の人々に語りかけた「この子らを世の光に」という考え方に出会い、影響を受けたことが今がある経緯ですね。
南
ありがとうございます。水流様は現在、「教育の中にこそ福祉の思想があるべきで、福祉の中に教育の原点がある」というお考えをお持ちであるかと思います。なぜそのような考えに至られたのでしょうか。
水流
教育こそが人に寄り添って支援し続けるものです。知的障がいの方々は言葉で伝えても、なかなか理解することが難しいんですよね。だからこそ常に体験で学ぶ必要があると思うんです。彼らも一般の方と同じく、成長する可能性を持っており、常に学びの機会は必要で、これが教育にも通じていると思ったんですよね。
南
どのようにすれば、知的障がいの方と一般の方が一緒に学べる機会を持てるのでしょうか。
水流
幼稚園・保育園という、早い時期から一般の方々と知的障がいの方々が一緒にいることで、お互いの存在を知り、お互いが当たり前にいる関係性を築けると思うんです。また、知的障がいの方に対する差別・偏見の少ない一般の方を増やすことにも繋がります。
南
早い時期から一緒にいることが大切なのですね。
水流
みんながごちゃ混ぜで一緒にいる環境こそが大事で、これが「教育の中にこそ福祉の思想があるべきで、福祉の中に教育の原点がある」という考えに至った経緯ですね。
南
なるほど。感銘を受けました。私自身「福祉=介護」という概念を持っていたのですが、福祉の定義(幸せ、幸福、安定した生活)から、水流様は人が幸せになるためには教育が大事で、それを早い時期から気づくことで、よりよい人生、社会に繋がるとお考えになられているんですね。
水流
間違いないと思います。今後は多様性を重視して、みんなが当たり前にお互いを認め合って生きていく世の中を実現したいと思っていますし、それがあるべき社会の姿であると思っています。
教育だけでは救えない人たちがいる
南
御法人は障害福祉サービスの事業を中心に展開されていますが、なぜそこに焦点を当てられたのでしょうか。
水流
祖父が戦後、戦災孤児の中の知的障がいの子供たちを養護するために施設を建てたのが始まりです。祖父はもともと教師を勤めていましたが、教育だけでは彼らを救えないということで、衣食住をしっかり支えよう、一般社会への独立が難しい人たちを支えていこうということでスタートしたと聞きました。
南
はじめはおじいさまから始まったものなんですね。
水流
そうです。スタートしてから約10年が経ち、最初に施設にいた方々が大人になり、行く先がない時に県下で民間最初の成人福祉施設としてゆうかり学園が誕生したんですよね。
南
歴史的な一面もお持ちなんですね。
夢を持てる事業形態へ
南
御法人の障害福祉サービスの現状をお伺いしたいです。
水流
私たちの障害分野は3年に一度、国による報酬改定というものがあるんですね。それによって、我々は決まった金額でしか仕事ができないため、簡単に職員の給料を上げることができないんです。なので、福祉人材を確保しづらい。ここが難しいところですね。
南
国が関わるとなると、経営が難しそうですね。水流様はその問題をどのように捉えていらっしゃいますか。
水流
福祉は給与が低いとよく言われているけれど、しっかりとビジネスライクに組み合わせていき、そこにちゃんと想いを込めて仕事をするということを意識して取り組みたいですね。そう簡単には実現できないけれど、夢を持てる事業体系にしていきたいと思っています。
南
今のお話を聞き、福祉という仕事がすごく楽しそうに感じました。ただ、そこに報酬改定という大きな課題が存在しているというわけですね。
水流
その通りです。他にも働き手に視点を移すと、今の職員は各々が想いを持って仕事をしてくれています。ただ、福祉の仕事は夜勤などもあるため、子育て中の方は勤務が難しいんですね。そうなると人手が足りなくなり、人材派遣会社等にお願いをするため、そこにかかり増しの経費が発生してしまい、経営が難しくなる現状もあります。
南
「理想を追いかける難しさ」というものを感じたのですが、御法人のこれからの理想についてお伺いしたいです。
水流
本来、利用者全員を施設に入所させていれば経営もしやすくなるんですよね。ただ、我々の仕事は利用者が暮らしたい場所で暮らしてもらうことが原点であるため、利用者の希望を優先し、グループホーム等での暮らしやひとり暮らしにチャレンジしてもらっているんですよね。
南
なるほど。
水流
なので、我々が夢や福祉の理想の姿を実現するためにどこまで動けるかが課題であり、そのためにも、我々は今の与えられた枠の中で満足するのではなく、利用者と共に夢や福祉の理想の姿を育み、それらを実現させていくことが今後の理想ですね。
南
ありがとうございます。これから理想を追い求めていく中で、これだけは譲れない、大切にしていることをお伺いしたいです。
水流
今後は利用者へのサービスと経営の両方を対等に進めていくことが重要であると思っています。ただ、我々は利用者が一番大事で、彼・彼女らに幸せになってもらうためにこの仕事をしているので、いくら経営が厳しくても夢と希望を持ち続け、それらを実現し続けることを大切にしたいと思っています。
今後の若者に期待すること
南
今の日本では人口の高齢化が進んでいく中で、福祉の仕事が大事になると言われていますが、矛盾しているなと感じました。これからの福祉をより良いものにしようとする理想があるのに、お金が原因でそれが実現できない。世論も福祉への予算に賛否両論あり、これからの福祉の成長というものが心配になりました。
水流
でも、そうやって一緒に考えてくれる、福祉の現状を共通認識してくれるような若者が増えていくことが、国を変えていくきっかけになると私は思っています。
南
なぜ、共通認識を持つ学生が増えることが国を変えるきっかけになるとお考えになったのでしょうか。
水流
例えばだけど、選挙などで今までとは違う、福祉も重視した視点から候補者を選ぶことにつながると思うんですよね。なので、これからの若者が福祉の仕事に就かなくても、福祉のことを気にかけることができる社会人が増えていってほしいですね。
南
ありがとうございます。
水流
ただ、今の日本の人手不足の問題は福祉だけに限らず全ての産業において直面している課題ですので、危機的状況ではあると思いますけどね。それを乗り越えるためには、個人的には教育と福祉セットで、そこに外国人の方々も含めて、日本の基盤を作っていくことが大事だと思いますね。
地域を巻き込み
利用者と共に暮らし続ける
南
水流様の理想や想いを実現するために、今後どのような取り組みや事業展開をお考えでしょうか。
水流
弊法人は近々、創立60年を迎えようとしているんですけれども、これは日本全体の知的障がい者施設に共通する問題として、利用者の高齢化というものがあるんですね。
南
そこにも高齢化という問題が存在しているんですね。
水流
そうなんです。今の日本では長生きしたいと思う人々を支えるための社会保障制度と障がい福祉の高齢化の行き先が錯綜しています。今後は支援を希望する方に対してしっかりとサポートできる体制を整えていかないといけないと思っています。弊法人でも今後、夢と希望を掲げながらも、利用者の方々が不自由がないように支援し続ける次のシステムを構築していかなければならないと考えています。
南
なるほど。やはり従来のシステムというものを変えていかなければならないんですね。
水流
それを実現していくためには人材が必要で、若手のみなさんにはぜひお願いをしたいと思っています。障がいのある方々への支援をする人だけでなく、医療関係者の方々にも協力してもらいながら、地域の中で一緒に暮らし続ける文化を築いていきたいと思っています。
南
そのうえで心がけることはありますでしょうか。
水流
個人的にロータリークラブというものに入っているのですが、そういった場面で色々な方々とのネットワークを築き、様々な場面でお互いに助け合えるつながりを持つようにしています。やはり、一法人として頑張るには限界があるため、時にみなさんに力を借りて進めていく、開かれた法人を目指しています。
南
外部との交流というものを大切にされているんですね。何か実際に事例はあるのでしょうか。
水流
それこそ、他の事業者様とコラボしてバリアフリー演劇というものを行っています。
南
バリアフリー演劇ですか。なぜ、その取り組みを始められたのですか。
水流
文化を真ん中に置いて、そこに障がいのある人ない人、老若男女みんなで集って、演劇の場面を共有することこそが地域社会で共に暮らしていくことに繋がっていくのではないかと考えたからですね。一法人だけではできないことを全国の組織の方々と協力して、みんなで楽しく福祉の仕事を行っています。
一緒に理想を追いかけたい人
南
水流様はご自身が思い描くビジョンを、どんな人と追いかけたいと思っていらっしゃいますでしょうか。
水流
我々と同じような想いを描ける人ですね。私自身が小さい頃に家が施設の中にあり、多くの知的障がい者の方々と一緒に過ごしました。同じような経験を弊社の仕事を通して経験してもらい、人から言われたから障がいや福祉を理解するのではなく、肌で感じてもらって、福祉を想える人になってほしいですね。
南
水流様と同じような経験を御法人の仕事を通して得ることで、水流様と同じような想いを描く仲間が増えるということですね。
水流
そうですね。障がいの方は一般の方と比べるとできることが少ないかもしれないけど、彼らにも得意なことはあります。例えば、弊法人の農業の取り組みでは、新人職員が利用者のお世話をする側ですが、農業の手さばきなどは利用者の方が上手なんですよね。なので、障がいの方と一緒に過ごすことは、彼らに対して尊厳を持って接することにつながるんですよね。
南
なるほど。決して、一般の方がお世話をするという一方通行ではなく、お互いに認め合うことが大切なんですね。
水流
人と接する中で、お互いを認め合いながら自分の強みや欠点を理解し、励まし合いながら成長できる人と夢や希望を語り合いたいですね。
南
最後に、学生に対して一言あれば、いただいてもよろしいでしょうか。
水流
本人が楽しめる仕事を見つけてほしいですね。自分がやっていて楽しいと思える仕事をご自身でも探してほしいし、探せるようになってほしいですね。一緒に楽しく仕事を盛り上げてくれる人と仕事がしたいですね。
南
水流様は本当に素敵な想いをお持ちの方だなと感じました。私自身も今後、福祉のことについて考えられる社会人になります。本日はありがとうございました。
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